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「さて、前置きはこの辺りにしておこうか」
「っ…」
「俺は、いくらでもおまえに命を狙われてやる。だけどしくじったときはその度に、キツい仕置きがあることを覚悟しろ」
ペチンとおもむろにぶたれたお尻に、ビクッと身体が跳ね上がった。
「っ、く…受けてやる。きさまの命を狙ってし損なったのは私だ」
「おぅおぅ、いい覚悟だ」
バチン!といきなり油断していたところに盛大な平手が落とされた。
「ヒッ……」
「くくっ、おまえのナイフに刺されていたら、俺の受けた痛みはこんなものじゃなかったはずだぞ?」
だから耐えてみろ、と言いながら、バチンとまた1つ尻が打たれて、私はその痛みに心を縮ませた。
痛い、痛い、痛い…。
男の言葉を認めるのも癪だが、確かに私は元王子という立場ゆえ、他人から強制的な痛みを与えられる経験などしたことがなかった。
「っ、ヒッ…」
だからこんな目に遭っている現実は、耐え難い恐怖と苦痛で。
そこをまたもバチンと打たれて、さすがにジタバタと身体がもがいた。
痛い…っ。
泣くのは駄目だと唇を噛み締める。
だけど積もり重なる痛みはどんどんと心を弱くしていって。
「あっ!…つぅ」
痛い、痛いっ!
熱く腫れたように感じる尻が、苦痛に晒される限界に早くも音を上げた。
「もっ、無理だ…っ」
ジタバタともがき、降り落ちる平手から逃れようと身体をずらす。
「おいこら。まだ仕置きは終わっちゃいないよ」
逃げるな、と押さえ込みにきた反対の手の、あまりの容赦のなさに、がくりと心が折れて挫けた。
「うっ、ふっ…」
だって痛いものは痛いのだ。
度重なる平手がまるで地獄の呵責にあっているようだ。
「うっ、あぁっ、ふっ、ぅぇ…」
それでもここは地獄ではない。
私に死は与えられなかったし、罰しているのは憎き仇の男だ。
「っ、くっ、ふっ…」
ボロリと溢れる涙の筋に、私はぐったりと抵抗をやめた。
「あん?急に大人しくなってどうした」
限界か?と問いながら、なおも平手を落としてくる男は間違いなく無慈悲な人間だ。
「うっ、ふっ、くっ…」
それでも今は、その冷徹さが心地よかった。
「は?おい?」
いいんだ、これでいい。
なおも容赦なく叩いてくれ。
私だけが生き残り、仇討ち1つも成し遂げられない、無力で無様な私だから。
情けなくて悲しくて、何故ここが地獄ではないのかと疑問が尽きない。
「っ…」
みんなは殺されてしまったのに。
地獄に向かい、今ごろ私が逝くのを待っているだろうに。
怖かっただろう。痛かっただろう。
たったの一太刀でも、身を、肉を断たれる苦痛はどれほどか。
「うっ、ふっ…」
もっと罰してくれ。
無力で不十分な私を。
「っ、ふ、ふぇ…っ」
父が、母が、みなが感じた苦痛は、これの何倍もあったのだろうから。
ぐたりと脱力し、男に打たれるがままに任せた身体が、不意に自由を取り戻した。
「え…?」
「ふっ、もういいぞ。十分だ」
「な、に…?」
「俺は、別におまえの自罰感情を満たしてやろうとしたわけじゃないんだ」
突然止まった仕置きの手に、頭が全くついていかない。
「き、さま…?」
「くっ、だからな、行き過ぎた反省はしなくていいと言っているんだ」
「………?」
「おまえが尻をぶたれているのは、俺の命を狙ったから。人に向かってナイフを振りかざしたんだぞ?それを反省すればそれでいい」
「だけど私は…」
ぐるりぐるりと巡る思考が、大混乱に陥りうまく回っていかなかった。
「まぁごめんなさいの一言くらいは欲しいけどな」
「っ…」
そんな、子どもみたいなっ…。
「ついでにきさま呼びも直したい」
まぁ苦痛で言うことを聞くとも思わないが、と、飄々と笑う男の意味が分からなかった。
「言ってみるか?ごめんなさい」
「っな…誰が」
「反省していないと取るけどいいのか?」
「っ…」
見ればまだ私の身体は男の足の上に伏せたまま。またいつでも仕置きを再開できると言わんばかりだ。
「ついでに悠牙と呼んでくれたら万々歳なんだけど」
「誰がっ…」
「ふふっ、やっぱり強気だな」
そこがいい、と何が嬉しいのか分からない弾んだ声で呟きながら、男がバシリと今一番の強烈な平手を落としてきた。
「っ〜〜!」
あまりの痛みに悲鳴すら声にならなかった。
「ほら」
「っ、やめてくれっ!謝る!謝るからっ…」
ナイフを向けてごめんなさい。
くぅっと苦痛に顔を歪めながら、私は男が望む言葉を口にしていた。
「悠牙」
「っ、ゆ、うが…」
「うん。それがいい」
やっぱりおまえの声で呼ばれる名は格別だな、と笑う男が、ふわりふわりと頭を撫でてくる。
「くくっ、かなり腫れたな」
真っ赤だ、と笑う声が憎くて腹立たしい。
「王子様には辛かっただろう」
こんな屈辱と苦痛。
そう分かっていながら、随分と容赦のなかったのは誰なんだ。
「わ、たしは…もう、王子ではない…」
きさまが…悠牙が奪ったんだろう?
「ははっ、そうだな、彩貴」
ポスンと軽く頭を宥められたから、もう駄目だった。
「っ…」
ばたりとソファーに突っ伏した頭がやけに重く、けれど反対に、心が驚くほどに軽くなっていることには、気付きたくはなかった。
「っ、きさまは、嫌いだ…」
嫌いなんだ、悠牙。
潔さも正しさも。強さもすべてが憎くてたまらない。
「仇なんだから…」
溢れる涙と、ゆるりと重くなった瞼を、とどめる術は持たなかった。
「あっ、おい、泣き疲れて眠るな!」
どこか遠くで悠牙の慌てる声がしたような気がしたけれど、それはざまあみろとしか思わなかった。
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