アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
04
-
がくがくと震えながら面を上げ、仲居は覚束ない様子で続ける。
「…三週間前に、裏手の山で白骨化死体が見つかっているんです。御遺体は警察が引き取って、調べている最中なのですが…。」
死を呼び込む山なのです、と仲居は気まずげに顔を顰めた。
「すいません。それって、どういう…。」
仲居は再び頭を下げ、話し出す。
「お客様は御気分を悪くされるかもしれませんが、事実ですので早めにお伝えしておきます。…知らない御様子ですし。十数年前、この裏手の山で集団自殺があったんです。…それから、山では自殺者が絶えなくなってしまって…。近頃は、噂も立ち消え、自殺者もいなくなったと思った矢先に白骨化死体が出てしまい…。」
そこまで言って、仲居は口が過ぎたと思ったのか慌てて口元に手をやり、打って変わって笑顔になった。
「…ですので、お客様には山の代わりと言っては何ですが、車で三十分ほど行ったところにある街を御紹介しております。少し時間がかかってしまいますが、ここでしか手に入らない特産品がたくさんあるお土産屋さんもありますし、オススメですよ??」
でも、と久米は一つ仲居に指摘した。
「話を戻して申し訳ないんですが、集団自殺の件、まるで見てきたように言いますね。十数年前の事件の時は仲居さん、もちろんいませんでしたよね??」
仲居はふっと顔を上げ、ほんの一瞬…訝しげな表情を見せた。
「え、ええ…。そうですが…。何故、御存じで??」
久米はハッとした様子で、急いで両手を眼前でひらひらさせだす。
「あ~、いえ!!…とても臨場感溢れる話し方だったので、つい。だけど、仲居さんがお若い人でしたので、違和感を覚えまして。」
「はぁ…。確かに、その頃はまだ学生でしたが…。」
釈然としない様子の仲居に対し、久米は後頭部に手をやり、努めて明るく返す。
「いやぁ~、ですが、僕は残念ながら幽霊や自然より人間が怖い奴でして。気にしなくて大丈夫ですよ。宿泊をキャンセルしたりはしませんから。」
「そう、ですか??」
「ええ!!」
不安そうな仲居の視線をよそに、久米は力強く頷いてみせた。
久米が働いている弁当屋は、夫婦が営んでいる小さなお店である。
気づけば久米は、定時を迎え、仕事を一段落させて更衣室のロッカー前でエプロンを脱いでいた。更衣室は、備品倉庫も兼ねている。入ってすぐ右手にロッカー、左手に備品の棚という具合である。ロッカーと棚の間は、一人がやっと出入りできるくらいの狭さである。するとそこに、ぽっちゃりした妻と痩せぎすの夫がやって来た。
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 48