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「…??」
久米がそちらを向くと、肩を叩いたのは黒髪セミロングの女性だった。黒いスーツ姿の彼女は氷柱を思わせる淡々とした目つきをしていた。
「少しすみません。お話よろしいでしょうか??」
「は、はぁ…。」
耳障りのよい声と低姿勢の話し方に、久米は気を許していた。
「失礼、私は水井と申します。あなたは??」
「久米といいます。何でしょう??」
水井はくすくすと無邪気に笑ってから、喋りだす。
「私、女一人旅で話し相手もおらず退屈していましてね。少しよろしいですか??」
「はあ…。でも、僕、面白い話なんてそうパッと出てこないんですが…。」
水井は今度はにっこりと微笑んで、私の話を聞いてくれさえすれば十分です、と答えた。
「久米さん、十二年前この旅館の裏山で十三人の男女が集団自殺をしたのを知っていますか??」
暇つぶしにしては随分物騒な話題を持ち出してくるものだ、久米は怪しげな雲行きを感じつつも、頷いてみせた。
「…はい。」
先刻も、朝比奈に聞いた話である。その前は、弁当屋の妻にざっくりとではあるが、うっかり口が滑った分を耳にしている。
「では、ここ十数年、自殺者が絶えないことは??」
「知っています、けど…。」
久米は明らかに落ち着きをなくし始めた。そわそわしつつ、周囲を見回す。…すると、不自然なことに先ほど数組いた客がすっかりいなくなっている。まさか、と久米は隣で流暢に語る水井を凝視した。水井は久米の様子には目もくれず、話を進める。
「ああ、回りくどくて、申し訳ありません。ここからが本題です。三週間前、旅館の裏山で小規模な土砂崩れがあって、そこから白骨死体が発見されたのは御存じですか??」
ほんの一瞬、久米の顔が強張った。が、すぐに真顔に戻って口を開く。
「…仲居さんに聞いています。でも、さっきから一体何の話をしようとしているんです??」
水井は小さく微笑むと、手元にあった鞄から一枚の紙片を取り出して、久米に手渡す。受け取った久米は…次の瞬間、静かに目を剥いた。急いで、手元に隠そうとする。
紙片は、水井の名刺だった。有名なゴシップ誌の名前が書かれている。
久米は声を極限まで押し殺し、隣に座る水井に問うた。
「…どうして、週刊誌の記者がこんなところにいるんですか!?」
水井は小首を傾げ、ちょっとした休暇ですよ、と誰も信じそうにない答えを口にする。
「…もうちょっとマシなウソをついてもらっていいですか??」
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