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久米はひっきりなしに全身を大きく震わせ、ガラス張りの窓から飛びのくと、突如大声をあげ始める。
「ぅ…っ、う゛わ゛あ゛あ゛あ゛~…っ!!」
手で耳を塞ぎ、胎児のように丸くなって、久米は両目を強く強く瞑った。…耳を塞いでも、箱根の笑い声は指の股をすり抜けて鼓膜を震わせた。目を閉じても、脳裏で悪夢に出てきた人骨が久米の罪の意識を苛んだ。
「…おい、少しは落ち着けよ。」
「…~っ!!」
近寄ってきた箱根に体当たりして怯ませ、年下の男は必死の形相で走り出す。泣きながら、手でしっかりと耳を塞いで…。どうにか靴を足に引っかけ、離れを抜けて旅館を出ていき、それでも足を緩めることなく雪原を駆けていく。
一体どのくらい走り続けただろうか。
久米の足がようやく止まる頃、彼は旅館の裏山に迷い込んでいた。全速力で走り続けた両脚は当たり前のように鉛並みに重い。いつの間にか降り始めた雪は、後から後から舞い落ちてくる。裏山の雪はどっしりと膝下まで積もっていた。積雪のせいで、久米はほとんど剥き出しの足で雪を蹴散らすようにして歩かねば、前に進めなかった。
「はぁ…っ。はぁ…っ。はぁ…っ。」
風船サイズの白く大きな息を何度も吐きながら、久米は四肢をばたつかせる。打開策がない今は、ただ足掻き続けるしかない。
どこに行くつもりなのか、久米自身わからないまま進み続ける。…少なくとも、久米は箱根と思わしき男がいる間は旅館には到底戻る気になれなかった。
十分ほど散々歩き回った後で、久米は雪が少ない木の下を見つけ、そこにそろそろと腰を下ろす。薄く積もっていた雪が体温で溶けたか。尻の部分がじんわりと水に濡れた。だが、仕方あるまい。更には、外気に晒された身体が少し冷えてしまうが、あてもなく体力と気力を消耗するよりよっぽどいい。久米は丹前の前を合わせると、両膝を抱えて、心もとなそうに背を丸めた。
身体はとうに限界を迎えていた。何もしていないのに、一人でに身体がガタガタと震えだす。手に吐息を吹きかけるくらいでは駄目だ。一刻も早く、温かな熱が欲しかった。
周りの寒さは相変わらずだが、久米の体は段々と落ち着きを取り戻していった。呼吸が落ち着き、なけなしではあるが体力が戻ってくる。気力も少しずつだがみなぎってきた。
身体が一段落したためか。錯乱しきって、ちっとも動かなかった脳がぐるぐると回転しだす。
「…箱根烈…。十年も経って、なんであの男と出会うんだ…!?」
久米にとって今の状況は最悪だった。箱根という男はとうに死んでいるものとばかり思い込んでいた。否、と久米は考え直す。
「…あれは、本当に箱根烈なのか??」
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