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「佐藤、さんが…。」
言いかけて、久米は一瞬かたまった。背に負ぶっているからか。引っかかったらしい年上の男が声をかけてくる。
「…どうした??訊きたいことがあるなら今しかないぞ。」
「…箱根さん、ええっと…。」
言い淀んだ挙句に、思い切って久米はある質問を口にする。
「箱根さんは、僕に石で殴られた時に反省したと聞きましたから、そんなはずはないと思いますが…。杞憂だとは思いますが、その場で佐藤さんになり代わろうとは思わなかったんですか??」
まさかな、と思い、引き攣る笑みを浮かべる久米に年上の男はひょいひょいと頷いてみせた。
「…考えたよ。で、佐藤の死体の近くに転がっていた荷物を漁った。」
「やっぱり!!」
低く唸る久米に、年上の男は愚痴を続ける。
「何だよ…。アンタもオレの荷物、粗方奪っていったろ。あれ本当に困ったんだからな…。旅館に宿代は出せないし、本物の“箱根烈”だと証明する物がないし…。」
「…は、話が脱線していませんか??今は、あなたが佐藤さんにならなかった件でしょう!?」
都合が悪くなったのを察して、慌てて話題を元に戻そうとする久米だった。
「…ああ、まあそうか。荷物を漁っていた時だ。携帯に電話がかかってきてな。出てビックリ、恐ろしい声で『一千万の借金忘れてねぇだろうな??』ってドスの利いた声が聞こえたんだ。」
「…一千万!?」
思わず、久米の声が裏返った。箱根は気楽に笑ってみせる。
「なぁ~、びっくりしただろ??あの佐藤ってオッサン、自分で社長やっていた会社が倒産して、一千万の借金放って夜逃げした先であの旅館に泊っていたらしい。凄い偶然だと思わねぇか??それぞれ、二百万、五百万、一千万の借金塗れ野郎達が同じ日に同じ旅館、それも同じ時刻にこの裏山に集まっていたんだよ。」
そういえば、と久米は天を仰ぐ。自身の声が、耳に蘇る。
『温泉に入っている途中に、五十代前半くらいの、佐藤さんという男の人に声をかけられました。佐藤さんはわけあって会社に行けなくなって…。きっと、精神か体調面を崩されたのでしょう。だから、この旅館に来たんだと話してくれました。』
佐藤の人の好さそうな雰囲気から、久米は勝手に精神か体調を患っているのだろうと思っていたが、まさか会社自体がなくなっているなんて予想外だった。
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