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自覚したのはいつだったのだろう。
街路灯の少ない住宅街
骨ばったごつごつした手に引かれながら空を見上げて歩いた。
いつもは勝手に足元へいく視線が夜空を映す。
右を見れば田んぼ左を見ても田んぼというほど田舎でもなく、高層ビルが立ち並び眠らない街と言われるような都会でもない俺たちの街
澄んだ日は時々星も見える。
「星?」
「飛行機だろ」
俺の声につられて上を向くウミは少し空を眺めてそう口を開く。
よーく見ると確かに動いてる気がしなくもない。
「じゃああれ」
「飛行機」
いや飛行機飛びすぎじゃん
星が見えると思ってる俺が馬鹿みたいだろ
そんなに視力は良くないけれどこんなにも見間違えることあるか?
「じゃああれも飛行機だな」
「いやあれは星」
次こそはとそちら側に歩み寄ればそれも違ったらしい。
何も当たらない。
俺は自分の視力を信じるのを少しやめることにした。
くだらない話をして帰路を歩く。
普段は暗くなる前にできる限り帰宅するようにしているから、俺にとって暗い帰り道は新鮮だ。
くだらない話はいつもしているけれど
空元気のようなそれは実際にその通りで
恐怖、不安と言った感情とどうしてか心躍るような感覚に揺られて体の内側は正直ドロドロだ。
しばらくして見えてきたのは見慣れたマンション
ウミのあとをついて同じマンションに入って同じエントランスを通ってエレベーターの前へ
1階に留まっていたエレベーターは上ボタンを押すとすぐに中の明かりがつく。
扉がゆっくり開いて中に入るといつの間にか離れていたウミの指先が5階を押した。
そこでウミは口を開いた。
「融」
「んー」
普段だったらそのまま俺の部屋がある4のボタンも押してくれるのにそれがない事に首を傾げる。
と、
「今日家、親父いない」
その言葉によほど自分は余裕がなかったんだなと思った。
ああ、そっか、今日は金曜日だった。
毎週金曜日、ウミのお父さんは家を空ける。
「わかってるよ」
「忘れてただろ」
「そんなこと、ねーし…」
エレベーターが揺れる。
自分の家の階を過ぎて5階で止まった。
毎週、いや、それこそほとんど毎朝ウミを起こすため来ているはずなのになぜか今日はとても緊張した。
短いはずの廊下がとても長く感じる。
指先が冷えだす。
扉の前でウミが止まる。
俺も止まる。
でも、視界はグラグラしたままだ。
鍵と扉の鍵穴の摩擦する音がいやに響く。
ガチャン、って音がした。
足の裏が床を蹴って靴底についた砂利を引きずる音がした。
なんでだろ、なんでだ
ここは自分の知ってる場所で、廊下には明かりだって付いていて、ウミがいて、何も怖がる必要は無いのに
腕が引かれた。
強い強い力であっという間に暗い部屋の中
「う、み」
「…」
「おれ、」
絞り出した声は震えていた。
なんだか今日はダメだ。
怖い、何もかもが怖い
手が震える、体が冷える、本能が何かに脅えてしまう。
「約束」
「っ」
「破んの」
抑揚のない声
あっという間もなく俺はウミの腕の中にいた。
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