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カランカランといくつものガラスがぶつかる音
子気味いいはずのその軽快な音が今の俺には酷く億劫で
乾杯の音頭で弾けるようにいっそう賑やかになるカラオケの個室に内心ため息を吐きたくなった。
「いや〜楢崎が暇でよかったよ」
「まーじ感謝しろ?」
こそっと耳打ちしてくる友人に合わせるように笑顔で返す。
俺にとっては何もよくないけれど
今更になって後悔しても遅い。
グラスに入ったジュースを一口飲み下す。
俺を含めて男が4人女の子が4人向かい合わせで座り
各々ドリンクバーで持ってきたジュース片手に自己紹介が始まる。
早く帰りたい、それだけを考えて得意の笑顔を貼り付け飾り、紹介を続ける子たちに相槌を送った。
ことの発端は昨日の夜
以前、断った合コンの幹事である友人から連絡が来た。
参加予定だった友人が急に参加できなくなったらしく
男の人数が一人足りなくなったとのこと。
本来だったら行くこともはないけれど
半分は気分転換、もう半分はウミへ当てつけのように
俺は気づいたら了承の返事を送っていた。
買い物に出かけた日以来、ウミには会っていない。
夏休み半ば、昨年だったらほとんど毎日のように顔を合わせどちらかの家で過ごしていたというのに
ベッドに寝転がりながら天を仰いだ。
視界にはいつもとなんら変わらない部屋の照明が映り
目を瞑ると一週間以上前のことなのに鮮明にこの前のことが頭を過ぎる。
逃げるように解散したあの日
結局ご褒美と称した洋服は、約束だからとウミは選んで買ってくれた。
それも俺好みの派手すぎずゆるすぎない手触りのいいTシャツに半袖のサマージャケット
ウミは俺には何も聞かなかった。
あれ以上ウミが何かを言うこともなかった。
すぐに解散とは言っても帰る家は同じなのだから
電車内も帰り道も隣にはいたけれどお互いずっと無言だった。
じゃあねもまたねも言わず
ウミはエレベーターを降りていいた。
それに安堵した自分も腹を立てた自分もいて
どうしようもない気持ちに打ちひしがれた。
あとあと思い返せばかなり理不尽に怒ってしまったと思うけれど、あの時はいっぱいいっぱいで今更掘り返して謝る事もできずいらない意地を張り続けて今に至る。
だからここにいることも
今となっては何でかな、と考える始末
「楢崎くん?でいいのかな」
「え?ああ、うん」
いつの間に席替えをしたのか隣に座っていた友人は正面にいて俺の隣には背の小さいセミロングの女の子が座っていた。
おとなしそうなその子は眉を下げて名前を告げる。
「菜乃花です」
「なのか、ちゃん」
「ふふ、うん」
俺がそう復唱すると少し恥ずかしそうに瞳を伏せる。
笑った頬にえくぼが見えて素直に可愛いと思った。
小さな花みたいに笑う子だと。
「楢崎くんはどうして今日来たの?」
「え?」
「あんまり好きできた、って感じはしなかったから」
マイクを持って流行りの音楽を歌う友人らに目を向けながらナノカちゃんの声に耳を傾ける。
そういう感情を隠すのは得意な方だと自負していたから驚いた。
顔には出ていなかったはずだけれど
「そんなことないよ?」
「ふふっ、そっか」
被りを振る俺にナノカちゃんはやっぱり小さく笑った。
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