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相方と特別な守護の話
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僕は、全身を締め付けてくる黒毛縄の甘い痺れに吐息を漏らした。
全裸で黒い縄に蹂躙され戦慄いている僕を取り囲むようにして見つめている人々の視線が僕の肌を這っているように感じられて、僕は、なぜか、昂っていた。
その暗い部屋の中には、僕の乱れた呼吸音と縄が僕を締め上げていく掠れた音のみが聞こえていた。
なんで。
なんで、こんなことになっちゃうの?
僕は、心の中で叫んで、冷ややかに僕を見下ろしている間宮を涙の滲んだ瞳で見上げていた。
あの日。
退魔の儀式と称して間宮に凌辱されてから、僕は、徹底的に奴のことを避けていた。
僕は、昼間は、大学に行っていて留守だったし、間宮は、夜になると出掛けていくようだった。
間宮に祓われたからというわけではないだろうけど、あの後、父の事業が持ち直し、僕への仕送りは無事、復活していたから、僕は、もういつでも、ここを引っ越せるわけだった。
僕は、学校の帰りに駅前の不動産屋で張り出されている物件のちらしを眺めていた。
駅から近くて、広くて、きれいで、家賃がそんなに高くないところ。
その僕の背後から、低い、頭蓋に響く声が聞こえた。
「引っ越す気なのか?」
振り向かなくてもそれが誰なのか、僕には、わかった。
間宮、だ。
僕は襷掛けにした鞄のひもを握りしめて身構えた。心臓がバクバクいって、体が熱くなってくる。
静まれ、心臓。
こんな奴の声を聞くだけで、体が自然と反応してしまうなんて。
僕は、振り向かずに不動産屋の入り口に張り出されている物件のちらしをじっと凝視していたけど、足が震えて立っているのがやっとだった。
なんだ、この反応。
まるで、僕が間宮を欲しているみたいじゃないか。
「何、無視してんだよ」
耳元で声が囁き、間宮が僕の後ろから手を伸ばして僕の見ていたちらしに手をついた。耳に間宮の息がかかる。僕は、びくっと体を強ばらせた。間宮は、僕を背後から押さえつけるようなポジションで僕の顎に触れて言った。
「お前に話があるんだよ、吉田 雪緒」
「ぼ、僕は、何も、あんたと話すことなんて、ない」
僕が言うと、間宮は僕の口の中へ指を入れて舌を押さえた。
「ああ?だから、話があるのは俺だって言ってるだろうが」
僕は、舌を摘ままれて唾液を滴らせて呻いた。
「んぅっ・・」
「ほんと、お前、いい顔するよな」
間宮の声が僕の中に染み渡っていく。
「たまんねぇな」
「ふっ・・」
僕の目尻に涙が滲んでくる。
だめだ、このままじゃ。
僕は、なんとか間宮の腕の中から逃れようとして身を捩った。間宮は、低く笑って、僕の耳を軽く齧った。僕の全身に、甘い痺れが走る。
「いいか、これから、お前は、俺の話をきくために、ここの隣の喫茶店に入る。わかったな、雪緒」
僕は、仕方なく頷いた。すると、すぅっと間宮の圧が引いていった。解放された僕は、顎に垂れている唾液を拭うと、振り向いて間宮を睨み付けた。
「もっと、普通に話が出来ないのかよ」
「普通に話したんじゃ、お前が話を聞かないだろ」
間宮は、僕の手をとると隣の喫茶店へと僕を誘導した。
カラン。
喫茶店の入り口の小さな鐘の音がして店のマスターが僕らの方を見た。
「いらっしゃい・・なんだ、あんたか、ソウさん」
渋い、髭のマスターは、嫌そうな顔をして言った。僕は、マスターにも嫌われてるんだ、と思って、笑ってしまった。
間宮は、マスターに言った。
「つれねぇ態度だな、マスター。もう、なんかあっても仕事受けてやらねぇぞ」
「それは、困る」
マスターは、間宮に手を引かれている僕をじろじろと不躾に見た。
「あれ?連れが違うじゃないか。相方のウタちゃんはどうしたんだよ?」
「詩は」
言いかけて間宮は、口を閉じた。
なんだ?
僕は、間宮が初めて見せる深刻そうな表情を見つめていた。この男は、本当に、見た目だけは、いい。性格は、最悪だけど。
間宮は、口を開いた。
「詩は、もう、いない。今の相方は、このガキだ」
相方?
なんのこと?
確か、漫才の相手のことをそういうよな。
僕は、ぐるぐる考えていた。
僕たち、漫才するの?
というか、詩って、誰?
「ブレンド、二つ」
そう言うと間宮は、僕を引っ張って奥の席へと連れていって座らせると、自分も僕の正面の席にどかっと座り込んだ。間宮は、テーブルに肘をついて僕を覗き込んだ。
不思議な瞳だった。
間宮は、青みがかった黒い瞳をしていた。なんだか、引き込まれるような瞳だった。
「俺は、お前の魔を祓ってやるときに言ったよな。1つだけ俺の頼みをきいてもらう、って」
そういえば、そんなことを言ってたな。
僕は、ちらっと間宮の方を窺うと、頷いた。
「そんなこと、言ってたけど、でも、あれは、あんたが」
「なら、話は早いよな」
間宮は、僕の話を聞くことなく、自分の言いたいことを言い出した。
「お前には、俺の相方になってもらう」
「相方?」
「ああ」
マスターが僕たちのところにコーヒーのカップを二つ持ってきてそれぞれの前に置くと、憐れむような目で僕を見て、頭を振って、去っていった。
何?
今のマスターのゼスチャーは、何なんだ?
間宮がコーヒーに、手に掴んだ角砂糖を放り込み始めた。
1個、2個・・
ええっ?
いったい何個、砂糖を入れるの、この人。
7個。
間宮は、さらに、ミルクをたっぷり注ぎスプーンで乱暴にかき混ぜると、カップを手に取りぐびっとその液体を飲み込んだ。
信じられないものを見るような僕の表情に気づいて、間宮は、言った。
「ここのマスターは、愛想もくそもない奴だが、コーヒーは、うまい。飲んでみろ」
「へぇ・・おいしいんだ」
僕は、砂糖を1個とミルクを少し加えると、そっと、カップの中をかき混ぜた。
「あの、相方って?」
「ああ、その話だったな」
間宮は、にっこり笑った。
「何、難しいことじゃない。俺の仕事の手伝いをしてもらうだけだ。金は、払う。一回につき5万でどうだ?」
はい?
僕は、自分の耳が信じられなかった。
一回につき5万?
なんか、嫌な予感がして、僕は、間宮から視線をそらした。
「仕事の手伝いって、何です?」
「それは」
間宮は、清々しく僕に言い放った。
「この前みたいに、縛られて、俺に、いかされてもらうだけだ」
僕は、口に含んでいたコーヒーを吹き出した。間宮は、嫌そうな顔をした。
「何?雪緒、お前、行儀が悪いぞ。まあ、そういうの、これから躾直してやるけどな」
躾直すって?
僕は、思わず激して、身を乗り出して言った。
「もう、この前みたいなのは、なし。やらない、やりません!絶対に、何があっても、お、こ、と、わ、り!」
「何があっても?」
間宮が興味深そうな表情を浮かべた。
「じゃあ、今、お前に取り憑いてるものが、お前を取り殺そうとしてても、か?
「はい?」
何、それ?
間宮は、僕に言った。
「俺、お前の部屋は、事故物件だって言ったよな」
「うん」
確かに、そんなこと言ってたような。
「あの部屋の前の前の住人は、そこそこ可愛いアラサーの女だったんだが、ある日、男友達に回されて、首吊って自殺した。それ以来、あのへやに自縛ってて入居してくる連中を呪い殺しているんだ」
「はい?」
そんなハードな内容、聞いてないよ!
そういえば不動産屋さんが、何度も、本当に、ここでいいのかって確認してたっけ。
にしても、そんな危険な物件、貸したらダメじゃん!
間宮は、しれっとして言った。
「もうその悪霊はお前の部屋で自縛ってはいない。なぜなら、そいつは、今は、お前に憑いてるから」
「へっ?」
マジで?
僕は、両肩をささっと払った。間宮は、わたわたしている僕を見て、ププっと笑った。
「そんなんで、どうこうできねぇよ」
「この霊とかが憑いたままでいたら、どうなるの?」
僕がきくと、間宮は、きっぱりと言った。
「死ぬな」
マジ?
僕は、はっと気づいて言った。
「でも、今のところ、特に何も変化は」
「お前には、特別な守護が憑いているからな」
間宮が、非常に面白く無さそうな顔をした。
「そのせいで、たいていの魔霊に憑かれてもなんとか普通に生きてこられてる」
「特別な守護?」
「ああ」
間宮は、興味なさげに言った。
「犬。でっかい白い犬、だ。そいつがお前を守っている」
犬。
僕は、子供の頃飼っていた老犬、タキのことを思い出した。
タキは、僕の亡くなった母が可愛がっていた雑種の大きな、もこもこの、熊みたいな犬だった。とても、賢くって、いつも、僕のことを守ってくれていた。僕らは、いつも、一緒だった。
でも、タキは、死んでしまった。
暴走してきた車から、僕を庇って。
タキ。
僕は、少し、涙ぐんでいた。
死んでからも、僕のことを守ってくれていたんだ。
「その犬が、俺に訴えてるんだよ」
間宮が、やる気無さげに言った。
「お前を助けてくれって」
「タキ、が」
「どうする?雪緒」
間宮が僕に聞いた。
「俺の相方になれば、退魔の儀式を行ってやってもいいぞ」
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