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生霊
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夏休みも始まる頃、僕は、本気で引っ越しを考えていた。
理由は、間宮のだらしなさのせいだった。
あいつは、僕から3万円も借金していた。
いい年した社会人のくせに、学生から金を巻き上げるなんて信じられない。
しかも、その巻き上げた金でパチンコとかのギャンブルをしている。
それだけじゃない。
キャバクラとか、風俗にも行ってるらしい。
最低だ。
昨日、夜に家に来た間宮が、僕に言った。
「頼む、雪緒。2万円、貸してくれ」
「ええっ?」
僕は、冷たい目で間宮を見て言った。
「いいよ。貸してやるよ」
「マジで。ありがとうな、雪緒」
僕は、財布から2万円を出すと、間宮に渡した。
「これで、あんたに合計5万円貸してることになる。それは、もう、返さなくってもいいから、そのかわり、もう、僕に近づかないでくれ」
「ああ?」
間宮は、僕に、自信満々で言った。
「お前が、俺を忘れられるっていうならな」
何が。
「『お前が俺を忘れられるっていうならな』だ!」
僕は、プンプンして言った。
「あいつのことなんて、5秒で忘れてやるっちゅうの!」
「そうは言うけどね」
髭のマスター、こと、天野さんは、苦笑して言った。
「なかなか思いきれないのが、君たちの関係でしょ」
僕は、今、このマスターの店でバイトしていた。
この喫茶店には、名前がない。
強いて言うなら、喫茶店という名の 喫茶店だった。
マスターの天野さんは、実は、間宮の遠縁にあたり、かつては、間宮のように退魔師の仕事をしていたのだという。だが、実は、緊縛退魔師の寿命は短い。黒毛縄は、若い男の気を好むため、あれを自在に使えるのは、30代後半までがせいぜいなのだという。
「それに、贄が、そんなに長くはもたないんだよ」
天野さんは、僕に言った。
体をはっている側である贄は、退魔師よりもさらにつとめられる期間は短いらしい。
なんでも、祓ってはいるものの、魔霊の残滓のようなものが魂に残されていき、だんだんと魂が汚れてくるのだという。そうなれば、贄は、魔霊に取り込まれてしまうのだ。
「魔霊に取り込まれた贄は、どうなるんですか?」
僕は、天野さんにきいた。天野さんは、さあ、と頭を振った。
「もう、人ではいられなくなり、闇に堕ちる。闇に堕ちた贄を救うことは、できない」
うわっ。
コワッ‼️
僕は、もう二度と間宮の言いなりにはならないと決意を固めていた。
あいつは、本物のクズだ。
自分のために体をはっている贄をなんだと思っているんだ。
きっと、だから、詩さんは、奴のもとを逃げ出したんだ。
「でも、あいつ、ウタちゃんには、優しかったんだけどな」
マスターがカウンター越しに言った。
「本当に、あんなクズでも、ウタちゃんにだけは、心を開いていたというか」
あれ?
変。
僕、なんか、胸が痛くて。
「ちょっと、ごみ捨ててきます」
僕は、店の裏に出ていくと裏口のところの階段に腰かけて俯いた。
なんで。
あいつが詩さんにだけ優しかったってきいただけなのに、こんなに、胸が痛いんだろう。
「あれ?・・雨・・」
僕は、手の甲で目元を拭った。
なんで。
あんな奴のこと、忘れられないんだろう。
その夜の出来事だった。
僕は、夢を見ていた。
どこか、わからないけれど、人里離れた
場所にある古びた一軒家の部屋で僕は、畳の上に座っていた。
ふと、見上げると、窓辺に腰かけている人がいる。
美しく、儚げな人だった。
薄い紺色の縦縞の着物を着たその人は、辛うじて男とわかるシルエットをしていた。
「また、あの人に抱かれたんだね」
その人は、僕に話しかけた。
「あの人って?」
「あの人だよ」
その人は立ち上がり、僕の方へと歩み寄ってくると、僕をとん、と突き飛ばして、倒れ込んだ僕の上に馬乗りになって、僕の両手を押さえつけ、僕を覗き込んだ。
「この泥棒猫」
「ええっ?」
訳のわからない僕に、その人は、怖い顔をして言った。
「お前さえ、いなければ」
ぞわぞわっと鳥肌が立つのがわかった。
その人の全身に黒い影のようなものが纏いつき、それは、紋様になってその人を包み込んだ。
「口惜しい」
その人は、僕の服を剥いで、素肌に触れて言った。
「若い、健康な肉体。これが、あの人を惑わせたのか?」
その人は、僕の胸をつぅっと撫で下ろし、その中心にある突起をぎゅっと摘み上げた。その痛みに、僕は、身を捩った。
「っ!」
「そうやって、媚を売ったの?」
その人は、手を僕の下半身へと伸ばすと、僕の下半身を露出させた。そして、彼は、そこへと体をずらせると、僕のものにふぅっと息を吹き掛けた。僕は、びくっと体を震わせた。それを見て、彼は、低く笑った。
「そんな初々しい反応で、あの人を誘ったの?」
「あっ!」
彼の人の冷たい手に掴まれて、僕のものは、きゅっと萎縮した。
「この程度のことで縮こまってるなんて、贄としては、なってないね」
「や、めてっ!」
僕は、その人を押し退けようとした。
だが。
その人は、止めようとはしなかった。
「お前が死ぬまで、お前の精を搾り取ってやる」
その人は、僕のものを口に含むと、上目使いに僕を見て言った。
「覚悟して、いくがいい」
「うわっ!」
僕は、呼吸を乱して目覚めた。
肩で息をしながら、僕は、辺りを見回した。
そこは、僕の部屋のベットの上だった。
「夢?」
僕は、呟いて、少し、ほっとした。
ふと、隣を見ると、間宮が眠っていた。
「な、な、な」
僕は、間宮を思いっきり蹴り飛ばしてベットから追い出した。間宮は、ぐぇっというカエルが潰れたような声を出して呻いた。
「なんで、あんたが、ここに!?」
「酷いな、雪緒」
間宮が恨みがましい目で僕を見上げて言った。
「せっかくお前が寂しくないようにと添い寝してやったのに」
「いらんわ!そんな気遣い!」
間宮は、もぞもぞと体を起こすと、畳の上に胡座をかいた。
「でも、お前、また、憑かれてるぞ」
「ええっ?」
僕は、間宮を見た。間宮は、真面目な顔をして言った。
「今度は、生霊に」
「生霊?」
僕は、さっき見た夢を思い出していた。
妙にリアルな感じのする夢だった。
夢の中で、僕は、あの人に。
「何?赤くなってるぞ、雪緒」
「うるさい!」
僕は、間宮に枕を投げつけた。間宮は、枕を受け止めるとマジな表情をした。
「このまま、その生霊と思い出すだけで赤くなるようなことを続けてると、お前は、じきに、とり殺される」
「そ、そんなこと」
「あるんだよなぁ」
間宮は、立ち上がると、僕の側に来て、僕の顎に手をかけて上を向かせて、僕の目を覗き込んだ。
「まだ、今なら大丈夫、だ。どうする?雪緒」
「えっ?」
僕は、間宮の深い群青色を思わせる瞳を見つめていた。間宮は、僕にきいた。
「どうだ?抱かれたくなったか?」
「んなわけ」
奴の手を振り払おうとした僕の手を間宮は、掴むと、言った。
「よく考えろ、雪緒。死にたいのか?」
「それは・・」
僕は、間宮の目から逃れようとして視線をそらせて俯いた。
なんだか、変、だ。
体が。
熱い。
おかしい。
喉が乾いて。
「・・僕は・・」
僕は、掠れた声で言った。
「あんたなんか、大嫌い、だ」
「ああ、わかってる」
間宮が僕に優しく口づけした。
「それで、いいんだ、雪緒。それで」
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