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フォトブック。
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「…信。」
「仁…お前車どーした?」
「とりあえず来客用の駐車スペースに停めさせてもらった。」
「そっか。――それじゃあとりあえず中に入るか。」
「ああ…」
車から降りた信は運転手に一言礼を告げると
早速共用エントランス前に突っ立っていた仁に声をかけ…
信がそのまま玄関ドア横の操作パネルの前に立ち
搭載されている小型カメラに視線を向けるとピピッ…という音と共に玄関のドアが開き
二人は何事もなくマンションの中へと入っていく
「…ここのオートロックの仕様――変わったのか?」
「ああ……最近は何かと物騒だからな。網膜スキャンに変わったんだ。
だから来客は前もって登録されている住人の身内などの近親者以外…
そこの操作パネルで住人かコンシェルジュを呼び出して鍵を開けてもらうか――
住人自ら事前に来客の予定がある事をコンシェルジュに伝えておかないと
入れないようになったんだ。」
「…だったらお前が俺の事をコンシェルジュに伝えておけば
俺は玄関先でお前の事を待つ必要なんかなかったのでは…?」
「っそれは――そーなんだが…俺が嫌だったんだよ!
俺がいない間に――お前と葵が会うのが…」
エントランスホールで二人はコンシェルジュの西崎に軽く会釈をし――
そのままドアの空いているエレベーターに乗り込むと
二人を乗せたエレベーターは静かに上昇し始め…
「…俺が――お前の弟に何かするとでも…?」
「ッ、別にそういう訳ではないが――
お前ら二人……仲悪いだろ…?」
「原因、お前だがな。」
「ッ…分かっているから嫌なんだよ!そーいうの…」
「…そういうのとは…?」
「っ俺の事で葵と張り合うなって言ってんだよ!…ったく…
何が悲しくて「私の為に争わないで~」みたいな状況になってんだ…?
それも男同士で……勘弁してくれっ、」
「…関係ない。」
「ッ…、」
「俺の気持ちはもう言った。
俺は…お前を諦める気はない。」
「ッ…悪いが…俺はお前の気持ちに答える気は無い。」
「今はそうでも変えてみせる。」
「…変わんねーよ。諦めろ…」
「…無理だな。
それに前にも言ったが――
あんなポっとでの“弟”なんかにお前をくれてやる程、俺はお人よしじゃない。」
「チッ、言ってろ。
――ただ俺は言ったぞ?“お前の気持ちに答える気はない”って…」
「俺も言った。“諦める気は無い”って。」
「………」
「………」
二人は無言のままその視線を交える事なく正面のドアを見据え…
やがてチンッ…という音共にドアが開くと
二人はやはり視線を交わす事無くエレベーターを降り…
仁の横で信は軽く溜息を吐くと――渋々と言った感じにその口を開いた
「…兎に角。
葵とはあまり揉め事を起こさないようにしてくれよ?
これから一緒に住むんだし…
お互い――俺も含めて嫌な思いはしたくないだろ…?」
「…それは相手次第だ。」
「仁…」
「ハァ……分かった。善処はする。」
「…頼むぞ。」
信は再度溜息を吐き…ようやく着いた家の前で姿勢を正して一呼吸置くと――
既にスマートキーで空いているドアノブに意を決して手をかけた…
※※※
「この時が一番可愛い時期だったなぁ~…」
「フフッ…あ!見て!コッチのはフォーク持ったまま寝てる~可愛い~!」
「…コレがアレになるなんて未だに信じられないっす…」
「ね~。あ、でもこれ見て?こっちのはちょっと今の面影あると思わない?」
「あ~…確かに。」
「でしょっ?!も~…可愛いなぁ~…」
「――お前ら……一体何騒いでるんだ?」
「!?」
「!信っ!」
信がリビングに足を踏み入れると
そこには“のぼるくん”を抱きしめてソファーに座る葵と、その隣に片瀬が座り…
向かいの席には信の父親である稔が座って
三人がリビングテーブルを囲んで何やら楽し気に話し込んでいる真っ最中で――
「お帰り信!あ!早速さっき届いたミカン一個頂いてるよ?
このミカン…甘くて美味しいね!」
「…そいつは良かった。
…で?一体何をそんなに騒いで――」
信がリビングテーブルに目を向ける…
するとリビングテーブルの上には何やら見覚えのある冊子が何冊か積み上げられ…
そのうちの一冊がテーブルのど真ん中ででかでかと広げられていて――
「――ッ!?ちょっと待て……それってまさか…っ、」
「…どうかしたのか?」
「ッ、」
「………ひとくん…?」
後から来た仁がヌッ…と信の背後に姿を現し…
その姿を見た途端、葵の表情が見る間の内に剣呑なものへと変わっていき――
その様子に信がしどろもどろになりながら葵に言い訳をし始め…
「あー…葵……その~、な…?お前には先にちゃんと言うべきだったんだが――」
「…お?ひょとしてキミ――仁君かい…?」
今まで葵達と一緒になって笑っていた稔が
信の後ろにいる仁に気づくや否や席を立って仁に近づくと
仁と握手を交わしながら肩を触ったりしてしげしげと仁を見つめ…
「…ご無沙汰しております。信のお父さん。」
「お~!やっぱり仁君か!いやぁ…すっかりおっきくなって…
最後に会ってからもう…どれくらい経つっけ?」
「…高校を卒業して以来ですから……かれこれ10年くらいは経ちます。」
「もうそんなに経つのかぁ~…いやぁ~…見違えたよ~…
スーツの似合う立派な男になって…
ところで――職業は何を…」
「ッ親父!」
「警察に勤めてます。」
「そっかぁ~…刑事さんかぁ~……こいつぁやべぇな…」
「…?何がです?」
「あっ…いやぁ…コッチの話し。
それよりもホラ!二人に見せたいものがあるんだ…席に座って。」
そう言うと稔は仁と信の背中をグイグイと押し
二人をソファーへと誘導する
「ホラ座って!」
「…では、失礼します。」
「………」
「!信はこっち!」
信が稔に押されるがまま…
仁と一緒に葵達の向かいの席に座ろうとした途端――
葵がちょっと頬を膨らませながら自分の隣の席をポンポンと叩き…
それに気づいた信が「お、おう…」と言いながら席を移動しようとすると
今度は仁が移動しようとする信の手を掴んできて――
「…信。」
「ッ…なんだよ。」
「………いや…」
「…?」
仁が掴んでいた信の手をスッ…と放し…
信が怪訝な表情で仁の傍から離れると、葵の隣にその腰を下ろす…
するとそれを見計らった稔が「フッフッフッ」とわざとらしい笑みを浮かべながら
リビングテーブルの上に既に開いた状態で置かれているフォトブックを
更に両手でズイッと広げて見せ――
「ジャ~~~ン!信の小さい頃のアルバムで~~~すっ!!」
「…やっぱりな。
俺が怒りそうなものってコレの事か…」
「…アレ…?なんだ信……知ってたのか?」
「…知ってたつーか…今日昼に親父に電話した時に葵が出て…その時に葵が――
!つーか親父っ!何葵残して勝手に出かけてんだよっ!
もし葵に何かあったら――」
「え~……だって葵君も信のアルバムを見たいって言ってたし…それに――
僕としては将来の信のお嫁さんには信のすべてを見せておいた方が良いかなと思って
だからわざわざ家からこのアルバムを持って来たっていうのに…冷たいなぁ…」
「なっ、」
「……………お嫁さん…?」
それを聞いた仁の表情がピキッ…と強張る
「あ!聞いてくれるかい仁君!
信の奴……昨日僕に――「わあぁぁあああぁあああぁあっ!!!
チョットマテちょっと待てっ!!!」
突然信が叫びながら席から立つと
唖然とした様子で固まる稔の腕をガシッと掴む
「っちょっと来い親父っ、話がある。」
「え…でも――」
「いいから来いっ!」
そう言うと信は強引に稔を引っ張ってリビングルームを後にし――
「………」
「………」
「………」
後に残された三人は呆然とその姿を見送るしかなかった…
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