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移動は一瞬だった。
まぶしい光に包まれて、顔を背けて――ふらついて1歩下がって見たら、もうオレ達の家に戻ってた。
「ミーハ!?」
けど、慌てて周りを見回しても、愛しい魔法使いの姿はねぇ。
「へあっ!? ココどこ!?」
同時に移動したハマーが、隣で慌てたような声を上げる。
その足元には、掘り出した朽ちた宝箱。金貨の山も、そのままきっちり入ってる。
なのにミーハだけがいなくて。
「あれ? ミーハは?」
きょとんと訊いてくるハマーに、オレは答えることができなかった。
日暮れ近くになっても、ミーハは『転送』されて来なかった。
つーか、あんま考えたくねーけど、『転送』の魔法って、もしかしたら術者にはかからねーんじゃねーか? 『移動』じゃねーもんな?
もしかしてアイツ、まだ西山に1人――?
そう考えると、居ても立ってもいらんなくなった。
「ワリーけど、ちょっと蛇塚まで戻ってくる」
オレは焦りを隠しもしねーで、ハマーに頼んだ。
「もしかしたら、入れ違いに戻って来っかも知んねーし、ここで留守番しててくんねーか?」
そう言うと、ハマーは状況が分かってねーみてーで、「は? え? 何?」とオレの服を掴んだ。
「だから……!」
怒鳴りつけそうになんのを深呼吸で抑えて、自分の予想をハマーに伝える。
「蛇塚んとこに、取り残されちまってんじゃねーかって、心配なんだ」
そう言うと、ハマーは青い顔で「でも……」と言った。
「それは分かったけど、どうやって今から行くんだよ? まさか、これから走って行くのか? 足で?」
「当たり前だろ? オレもあんたも魔法なんか使えねーんだし」
ぐいっとハマーを押しのける。
ぐずぐずしちゃいらんねぇ。できるだけ早く、陽が完全に沈んじまう前に着かねーと。
ハマーはおろおろと何か考えた後、もっかいオレの服を掴んだ。
「ま、待って。ちょ、ちょっとだけ時間くれ。オレがなんとかする」
「はあ?」
なんとかって。コイツがなんか頑張って、どうにかなるっていうんかよ?
冗談じゃねぇ、と思ったけど、オレが怒鳴りつけるより早く、ハマーは金貨をごそっとカバンに入れ、大慌てで出て行った。
金貨なんか何すんだ? また、使えねぇ呪文書でも買って来んのか?
「くそっ」
早くしねーと、って言ってんのに。なんでこんな。時間の無駄だ。
ジリジリと窓の外を見る。
西の空がオレンジ色に変わり始めてる。
急がねーと、暗くなったらアイツのこと探せなくなる!
ミーハ、無事なんかな?
魔法で『転送』できなくて、帰れなかっただけだよな? もう自力で西山を降りてっかな?
それともまだ、蛇塚にいんのかな?
――黄色い円盤は割ったから、もう毒蛇は出ねぇんだよな?
なんかスゲーイヤな予感がすんのは、『劫火』の炎に焼かれて、何かがキィキィ鳴いてたような気がすることだ。
魔法で出てきた蛇なら鳴くのか?
それとも耳鳴り?
それとも――草むらに紛れてキィキィ鳴く、たくさんの「何か」だった――って可能性はねーか?
と、ようやくハマーが戻って来たらしい。扉が乱暴に開かれた。
「お待たせ、アル!」
少し上ずったような声で、ハマーが言った。
「遅ぇーよ! グズ!」
イライラと罵りながら家を出たオレは、そのまま走り出そうとして、「うっ」とうめいた。
家の前に、立派な栗毛の馬が立っていた。
「これ、買った。乗ってって。そんで、ミーハを頼む!」
ハマーがオレに馬の手綱を差し出して、親指立ててニッと笑った。
「あ、あ……」
呆然としたまま、おっかなびっくり手綱を握る。
いや、そりゃ、ウマに乗んのは初めてじゃねーし、乗れるし、ビビってる訳じゃねーけど。
宝箱の中身だって、「山分けしよう」って訊いてたし、事実、面倒ばかりかけられてたし、「迷惑料」に貰ったっていいくらいだと思うけど。
でも、とっさに馬を買って来ようとか――発想がスゲーわ。
バカだ。
バカだけど、侮れねぇ。
「……留守番、ワリーけど頼む」
オレはハマーにそう言って、よっと馬の背に乗った。
目指すは、今朝行ったばかり西の山。
「はっ!」
思い切り馬の腹を蹴って、全速力で走って貰う。
ミーハもタダモンじゃねーけど、その幼馴染もタダモンじゃねぇ。
つまんねー嫉妬とか勝手に感じて、つんけんして悪かったな、と、ちょっと思った。
馬はやっぱ、素晴らしく速かった。
まだ日の暮れねぇ内に、ふもとの村を通過する。夕日は西山の向こうに、ゆっくりと沈み始めてた。
じきに、夕日に後ろから照らされて、西山は深緑色のシルエットに変わった。
逢魔が時。
ミーハがいるだろう西山の、斜面に炎が上がるのが見えた。
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