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馬で乗り入れると、蛇塚のあった辺りには、むわっと焦げ臭いニオイが漂ってた。
『劫火』で何度も焼かれたんだろうか? 地面が黒い。
「ミーハ!」
オレはできるだけ大声で叫んだ。
「迎えに来たぞ!」
返事はねぇ。
馬から降り、手綱を引いて歩きながら、キョロキョロと視線をめぐらせる。
毒蛇の気配も、モンスターの気配もねぇ。そう思いつつ、右手が無意識に剣の柄に触れるのは、やっぱ何か不安だからだ。
ミーハは、もうとうに山を下りたんかな? それとも、『転送』で移動できた?
ふもとの村を通過した時、ミーハが来てねーか訊けばよかった。
沈み始めた夕日は山の向こうに行っちまって、こっち側はもう暗い。
けど空はまだ少し明るくて、気のせいか、地面が数か所キラキラ光ってるように見える。
暗くてよくワカンネーけど、何だコレ? ハマーの金貨でも散らばったか?
「ミーハ! いねーのか?」
叫びながら歩きつつ、ふと足元の光の1つに手を伸ばす。
金貨にしちゃ小さいし、石みてーだな。
そう思って屈んだ時――真っ暗な野原の真ん中に、誰かがうずくまってんのが見えた。
いや、誰かって。ミーハだ。
「どうした、どっか痛めたか!?」
オレはギョッとして、その人影に駆け寄った。
「ミーハ……?」
返事はねぇ。
ミーハは地面にうずくまり、顔を伏せて泣いていた。
それでも、杖をしっかりと握ってんのは、さすがって誉めてもいいだろう。
「ケガ、ねーか?」
声のトーンを落とし、そっと優しく背中を撫でると、ミーハはビクンと全身で跳ねた。
顔を覗き込んでみるけど、真っ暗でよく分かんねぇ。
ケガをしたんじゃねーなら、一人で心細かったか? やっぱ、何かのモンスターが出た?
それとも――何か思い出したんだろうか?
「アル、君」
すん、すん、と鼻をすすりながら顔を上げたミーハは、唇をへの字に歪めると、いきなりオレに飛び付いて来た。
どしんと、つられて尻もちをつく。
「どうした?」
訊きながら、ぎゅっと抱きしめてやったら、細い体は可哀想なくらい震えてた。
「……とにかく、陽が暮れちまう前に帰ろうぜ?」
そう言って立つように促したけど、ミーハはぶんぶんと首を振って、ますますオレに強くしがみ付く。
何があったんか気になったけど、聞いてる時間が惜しいし。
もうちょっと落ち着いたら、強引に抱き上げてでも馬に乗せるしかねーか。
ミーハに抱きつかれた拍子に手綱を放しちまったけど、馬は逃げたりしねーで、大人しく近くに立っていた。
馬の相場ってどんくらいかよく分かんねーけど、カバンにごそっと金貨入れてたし、もしかしたら結構いい馬くれたんかも?
ハマーも……心配してんだろうな。早く帰んねーと。
オレはミーハをやんわりと引き剥がし、こっち向かせて口接けた。
昨日の夜みてーに、いっそ抱いて揺さぶって眠らせてやろうかと思ったけど、こんな場所じゃそういう訳にもいかねーし。
深くキスして、舌を強引に絡めながら、抱き上げて立たせる。
「ミーハ。話はベッドで聞いてやっから」
そう言ってこめかみにキスすると、ミーハはすんすん鼻を鳴らしつつも、「うん」と小さくうなずいた。
拾い上げた石はまだ何か光ってるっぽくて、明るいところで見てみたくなったから、持って帰ることにした。
一方のミーハは、馬を見て喜んでる。
ハマーからのプレゼントだっつったら、更に笑みを浮かべた。
「うお、スゴイ、ね」
って。
いや、確かにスゲーし助かったけど、なんだそれ?
一瞬チリッと胸の奥が焦げたけど、今はそんなコト言ってる場合じゃねーし。
馬にミーハを乗せ、その後ろにオレも乗って、「やっ」と腹を軽く蹴る。
ハマーのくれた大人しい馬は、大人しくオレに操られるまま、山道を素直に駆け下りてくれた。
家に帰ったのは、かなり遅くなってからだった。
山を下りてすぐに暗くはなったんだけど、月が明るくて助かった。最悪、たいまつでも作るかとか思ったが、そんな必要もなかった。
帰り道で、一体何があったんかを訊いた。
ミーハはビクンと小さく肩を揺らして、それから「お、思い出した、んだ」と言った。
それはやっぱ、『転送』関連の記憶らしい。
「オレ、いらない子、で。し、仕事終わった後、家に帰る、の、『転送』しろ、て、言われて」
ミーハは喋ってる内に思い出したのか、激しくドモリながら、またすすり泣き始めた。
イジメか虐待か、って思ったけど、もしかしたらスパルタ教育だったんかも知んねぇ。
「か、帰り際、呪文書渡され、て」
って。どうもそれは、『転移』の呪文書だったみてーだ。
新しい呪文書を一巻渡されて、「これを使って帰るように」って言われたとか。マジか?
それは……その魔法が使えるようになるまで、帰ってくんな、っていう意味か?
いつもミーハを助けてくれる、「背の高い誰か」が出て来なかったのには安心したけど――いつの記憶なんだろう?
引き取られたっていう、遠い親戚の家でのことか?
一体、どんな親戚だったんだ!?
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