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ミーハがハマー(人間)と話をはずませてんのが気に食わなくて、どうしようもなく邪魔したくなった。
ちっ、と舌打ちしながら周りを見回すと、ふと瓜の屋台が目に入る。
大人は肉に群がってるけど、瓜の方にはガキが多い。にこにこ顔で瓜にかぶりついてるガキどもを見て、ミーハに食わせてぇって考えてたの思い出した。
「2つくれ」
銅貨を渡して瓜を受け取り、ミーハとハマー(人間)の元に戻る。
「ミーハ」
呼びかけて片方の瓜を差し出すと、ミーハはデカい目を見開いて、ぱぁっと眩しい笑顔を見せた。
「一緒に食おーぜ」
ニヤッと笑いかけ、手本を見せるべくもう片方の瓜にかぶりつく。昨日食ったのと同様、甘くてジューシーで冷たくて美味い。
「むぐ、んんっ」
ミーハの口にも合ったのか、口ん中いっぱいに頬張って、歓声を上げてんのが可愛い。
「アル~、オレのはぁ?」
ハマー(人間)に物欲しそうに言われたけど、てめぇのは自分で買えっつの。甘えんな。
「はあ?」
じろっと睨んでやると、ハマー(人間)も本気でねだってた訳じゃなかったみてーだ。「もおー、ケチ」とか悪態をつきながら、自分で瓜を買いに行った。
その背中を見送って、ミーハの方に視線を戻す。
「美味ぇだろ?」
オレの言葉に、黙ったままこくこく大きくうなずくミーハ。柔らかな頬はやっぱ、瓜でぱんぱんになってて、無邪気で相変わらずで可愛かった。
「お前に食わせてーなって思ったんだ。叶ってよかった」
しみじみ呟いて、手元の瓜を一口かじる。
最大の願いは、また2人で一緒に住むことだけど。それが簡単に叶いそーにねぇ分、ささやかな願いが叶うと嬉しい。
ミーハはオレの呟きに、信じらんねーって感じでまばたきして、赤面しながら目を泳がせた。
「お、オレ……に?」
「ああ」
つたない問いに、短く返す。
ミーハの手から食い終わった後の瓜の皮を取り上げ、捨てに行くべく歩き出すと、ミーハもひょこひょことオレの後をついて来た。
まるで、拾った直後のコイツみてぇ。
懐かしい記憶に、ふっと頬を緩めた時――。
ザンッ。
空気を震わす音と共に、白いフードをかぶった魔法使いが3人、オレらの目の前に現われた。
「あ……っ」
声を詰まらせ、びくっと肩を震わせながら、ミーハがオレの背中に隠れる。
けど、魔法使いたちにとっちゃ、オレなんか障壁にすら見えねぇらしい。
「ジュニア様、そろそろご帰還を」
冷たい声で言って、ミーハに手を差し伸べた。
「わがままも大概になさいませ」
「おじい様がご失望ですよ」
「さあ、もう十分休憩になったでしょう」
勝手なことを冷たい口調で口々に言い募る3人の白フード。
「おい……」
低い声でたしなめても、無名同然のオレじゃ、ルナ程の牽制もできやしねぇ。
「それとも、お1人で『転移』されますか?」
嫌味な口調で苦手な魔法をズバッと言われ、ミーハがフードの胸元をギュッと握る。
この様子じゃ多分、まだ「転移」も「帰宅」も使えねぇままなんだろう。「転移」はともかく「帰宅」の魔法は、幼少時に帰る家を失くしたトラウマも関わってっから、厄介だ。
それを知らねーハズはねーと思うのに、意地が悪い。それとも、本気で知らねーんだろうか? じーさんも?
「オ、レ……」
胸元を握り、うつむいたまま、ミーハがオレの前に出る。
「オレ、帰り、ます」
震える声での返答に、「当然です」って上から目線で答える3人の魔法使い。
ミーハの決意も、寂しさも悲しみも悔しさも、コイツらには何も分かんねーんだろうか? 魔法の使えねぇオレには助言すらできなくて悔しい。
けど、励ますくらいはできるハズだと思いてぇ。
「ミーハ」
細い肩を掴んで振り向かせ、ポケットから銀のブレスレットをチャラッと取り出す。
オレが拾い、ミーハが「研磨」したルビーに、2人で稼いだ金をつぎ込んだ、当時精一杯背伸びして作らせた、恋人の証。
これのこと、ミーハは覚えてねぇだろうけど、ミーハのために作らせた品だし。やっぱ本人にずっと着けてて欲しかった。
「オレだと思って、大事にしてくれ」
耳元で告げ、手を取って細く白い手首に着ける。
「え……っ」って声を詰まらせて、上目遣いでオレを見る元・恋人が愛おしい。
オレの元に、帰って来て欲しい。
本音を押し込め、ほろ苦い思いでふっと微笑む。
「前にも行っただろ。お前は『転移』も『帰宅』もできる。帰る家が分かんねーなら、帰るべき家族の顔を思い出せ」
「か、ぞく……」
淡い声で呟くミーハにうなずいて、すばやく顔を寄せ、唇を奪う。
真っ赤になった最愛の魔法使いを、最後に抱き締めたかったけど、それは残念ながら叶わなかった。
「無礼な! エアボム!」
そんな声と共に、ぬるい魔法が飛んで来て、バッと避けざるを得なかった。
「おい! てめぇ!」
オレの怒声や、周りの住民たちのどよめきの中に、ミーハの焦った声が混じる。
「きょっ、居住区で、攻撃、はっ!」
細い体を震わせ、魔法を打った魔法使いに抗議するミーハ。
あまりにぬるい攻撃だったし、ただの牽制だったのは明らかで、食らったって尻もちつく程度だったに違いねーけど、そういう問題じゃなかった。
けど、シーン家ご自慢のお目付け役は、そんなルールも無視する気みてーだ。
「テレポート」
冷徹な声で一言、「転移」の魔法を展開させて、あっけなくミーハを連れ去った。
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