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43 喪失編
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そのままその診療所には、10日ほど世話になった。
いや、動けねぇくらいの重症だったケガが10日で退院できたのも、ミーハと治療師の治癒魔法のお蔭だ。
「『大治癒』か『蘇生』でも使って貰ったの? 優秀な魔法使いが近くにいて良かったわね」
年配の治療師のオバサンに言われたけど、オレは特に反論しなかった。
怪我した直後の記憶がなくて、よく分かんねーってのもあるけど、ミーハが優秀なヤツだってコトは事実だし。否定したくねぇ。
今のアイツは『大治癒』も『蘇生』もできねーハズだけど……元のアイツは、「シーン・ジュニア」は、知ってた可能性が高い。
オレのケガを引き金にして、記憶が戻ったって可能性もある。
それにしても、診療所に縛りつけられた10日間は、長かった。
ミーハもいねーし、恋人を物理的にも追い掛けて行けねーから、マジ、ストレス溜まりまくりだ。
勿論、これで完治って訳じゃねぇ。なんとか乗馬に耐えられるって程度らしい。
アイツを追って首都へ、なんてまだまだ無理で。現状は、自分ちに帰る事だって、オレ1人じゃできそうになかった。
オレらの住む町まで、普通なら馬で丸1日の距離だ。けど、さすがに早駆けまではできねーし、3日くらいかけるつもりで、のんびり帰ろうとタオが言った。
贅沢な旅だな、とまず思った。
移動時間が長ぇと、そんだけ費用もかかる。入院中の滞在費だってバカになんねーだろうし、大体治療費だって結構したハズだ。
退院の時にオレには請求が来なかったから、誰かが払ってくれたんだろう。
誰かって……まあ、タオかルナかしかいねーけど。
「ワリーな、金は後で払う」
馬に乗る直前、2人にそう言って頭を下げると、ルナに「気にすんな」って言われた。
「貰っとけ。チビのじーさんからの慰謝料だからよ~」
「……は? 何つった?」
チビのじーさんからの、慰謝料……?
聞き違いかと一瞬疑ったけど、そうじゃねーみてーだ。
ほらよ、と革袋を投げ寄越され、ずしっと重いその中身を見て鳥肌が立つ。中には金貨がぎっしりと入ってた。
前にハマー(人間)が、宝箱に山盛りの金貨・銀貨を掘り起こしてんの見てたから、別にこんくらいの金貨にビビったりはしねーけど。
でも、決して少ない額じゃねぇ。
それに何より聞き捨てならねーのは、「慰謝料」って名目だ。
「慰謝料? ……なんだそれ?」
ミーハを連れ去っといて、そんでオレには大量の金貨? それじゃまるで、手切れ金じゃねーか!?
「受け取れねぇ!」
オレが革袋を突き返すと、ルナは「いーから貰っとけって」と面倒臭そうに言った。
「手切れ金だなんて一言も言われてねーんだから、遠慮なく貰っときゃいーんだよ」
「そうそう、それに多分、慰謝料ってよりは口止め料って意味の方が強いと思うぞ」
そう横から口を出したのはタオだ。
ますます意味が分かんねぇ。
「口止め料? どういう意味だよ!?」
イラついて、ついつい声が荒くなる。
けど、それにビクッと肩を揺らすだろうミーハは、隣にいなくて――納得できねーでイライラした。
「口止め料ってのは、チビの経歴に傷を残さねー為だろーな」
ルナが、冷静な顔で言った。
「デザートライオンごときに手こずって、パートナーに大怪我させた。チビを天才魔法使いとして、後継ぎにしたがってるじーさん側としちゃ、何としても消してぇ失態だ。だから」
だから。
「チビの評判落とすつもりがねーんなら、黙って貰っとけっつーの。そんだけで、ああいう権力者階級の人間は安心すんだからよー」
「そんな……」
ミーハの評判を、オレが落としたりする訳ねーだろ。
デザートライオンごとき、って。あのモンスターが炎をまとっちまったのも、元はと言えばオレが――。
……ミーハのせいじゃねーっつーのに。オレが、恋人の評判落とすようなマネ、するハズがねーのに。
ミーハ……。
黙り込んでハマー(馬)の首筋を撫でてると、ルナがオレの側に寄って来た。
「しゃーねーな、特別に手ぇ貸してやるよ」
そう言って強引に、オレをハマー(馬)の背に乗せる。
ハイランダーウルフを軽々と背負える男は、この間ミーハにしたみてーに、オレのコトも軽々と扱った。
さすがだな、と思って、力の差に現実を思い知る。
ルナもタオも、そしてミーハも無傷で。オレだけこんな重傷で。
「ははっ……」
笑おうとしても、笑えなかった。
オレは――ミーハの相棒を認める試験に、多分合格しなかった。
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