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※長らく中断して申し訳ありませんでした。ピンキードラゴン編、短期集中連載したいと思います。
ルナは「はあ」とため息をついて、オレらの前に戸を開いた。
ビミョーにイヤそうにしてんのが、妙に気になる。
「まあ入れよ。つっても、オリャー明日から仕事だ。数日いねーかも知んねーけど、泊まってくか?」
「いや、宿はもう取ってんだ」
馬も荷物もねーの、見りゃ分かるだろうに。オレがそう言うと、ルナは「あっそう」とホッとしたみてーな顔をした。
なんだ? オレらに泊まって欲しくねーのか?
前に気前よく「うちに来い」とか言ってたんは社交辞令だった? それとも……なんか事情が変わったんだろうか?
さり気なく観察するオレの横で、タオが相変わらずの調子でルナに訊いた。
「なあなあ、明日の仕事って何だ? ピンキードラゴン?」
「タオ……」
まだドラゴン言ってんのか、しつけーな! ……と思ったけど。バカはタオだけじゃなかった。
「はあっ!? 何で知ってんだ!?」
ルナは大声で言って、それからオレらの顔を見て失言に気付いたらしい。
「うわ……」
と、思い切り苦ぇ顔をした。
「キッタネーな、カマかけたんかよ?」
って。いや、お前が勝手に自爆しただけだろ、っつの。
そんなルナに、タオが目をキラッキラさせて、大声で言った。
「やっぱり!? オレも行く!」
「あのな。コドモの遊びじゃねーんだよ」
ルナは冷たく言い放とうとしてっけど、んなセリフ、『赤い閃光』に通用する訳ねーっつの。
「なあなあ、オレらも行っていーだろ? 邪魔にはなんねーからさ。どうせ大人数で行くんだろ? オレら2人くらい増えたってバレねーって」
目を輝かせ、ぐいぐいルナに迫るタオ。バレねーって、そういう問題か? 呆れた言い分に苦笑する。
「お前、シツケーな。そこまでドラゴン見てーのかよ?」
スゲー執念だな、と思いつつ、確かにタオの言い分ももっともだなと思った。
あの張り紙を見た感じ、人数制限があった訳じゃなかったし。万が一、料金のことでもめたとしても、タオの目的はドラゴンそのものであって、金じゃねぇ。
「報酬は、いっそ無しでもいーからさー」
ほら、本人もやっぱ、そう言ってる。
この場合、普通に考えてルナが断んのはおかしい。なんでかっつったら、ヤツはタオが天才剣士・『赤い閃光』だって知ってるからだ。
実力も知名度も申し分ねーし、しかも知り合いだ。一緒に戦ったこともある。これで断るようなら、それなりの理由があるってことだろう。
タオがそこまで考えて喋ってるとは限らねぇけど、でも意外とコイツ、洞察力があるからな。
そんで案の定、ルナの答えは――。
「ワリーけど無理だ」
だった。
「もう参加者締め切ってっし。今頃突然来られたって、人数の変更はきかねーよ」
「えー、そこを何とか、お前の紹介でどうにかなんねーの?」
ごねてみても答えは同じで、ルナは首を振るだけだった。
「オレの紹介なんて、大して意味ねーぜ」
って。ホントかよ、って感じだ。『黒の烈風』の名だって、ダテじゃねーだろうに。
「……ちぇー」
対するタオは、一瞬オレと目線を交わし、それからあからさまに拗ねて見せる。唇をとがらせて、両手を頭の後ろで組んで。
「つまんねーの。なんだよ。オレらに来られて、都合のワリーことでもあんのかよ?」
と、さり気ない風を装って、ズバッとルナに切り込んだ。
タオのこういうトコは、ホントスゲーよな。
討論に不向きな、知性派じゃねぇ同士の言い争いは、先に正論を吐いた方が勝ちだ。
論点をずらすことどころか、うまい言い訳を捻り出すこともできねーなら、もうルナの負けは見えている。
「……るっせーな、んなのねぇよ!」
ルナが整った顔を苛立ちに歪めた。
キツイ目でじろっと睨んだって、ミーハじゃあるまいし、このタオが怯む訳ねぇ。
「図星かよ! なんだ? もしかして、ミーハのことか!?」
そう言って、身長差のある相手をじっと見つめてる。
ミーハって名前を聞かされて、今度はオレもドキッとした。
ハッと顔を上げてルナを見ると、ルナはまた、苦そうに眉をひそめてて――。
「別にアイツは関係ねーよ」
ふてくされたようにボソッと言って、はーっ、と大きなため息をついた。
なんだ、それ? その煮え切らねぇ態度、イヤな予感しかしねぇ。何より不穏なのは、ルナがオレを見る痛そうな目だ。
けど、やっぱ何を言っても、ルナを「うん」って言わせることはできなかった。
「今回は、諦めろ」
そう言うルナに、タオも「わーかったよ」とふてくされた顔で、引き下がった。
「どうも変だよな」
宿に帰ってから、勿論、そういう話になった。
「オレらのこと、まるで邪魔者扱いじゃん。そりゃ、来賓としてもてなされるとは思ってなかったけどさー、こんな門前払いばっかされんの、スゲー予想外なんだけど」
タオの言葉に、「まーな」とうなずく。
ミーハの家でも予想外、ルナの家でも予想外。
そりゃオレだって、すんなり何事もなく再会できるとか、家に帰れるとか、おめでたいコト考えてた訳じゃなかったけど。
なんか変だ。モヤモヤとストレスが溜まってく。
ミーハは明日、もしかしてルナと一緒に行くんかな?
ルナのあの警戒ぶりからしたら、どうもそうとしか考えらんねぇ。けど、だとしても、なんでそれで、オレらが排除されなきゃいけねーんだ?
オレが足手まといだからか? でも、それならなんでタオまでダメなんだろう?
ミーハが辛そうな目にあってるとこ、見られたくねーから、か? よく分かんねぇ。それともミーハに、オレらを見せたくねーんだろうか?
けどあいつは、ミーハは、こっちの親戚連中のコト、怖がってたよな?
だったら、そんな連中に囲まれてる状態より、オレらが側にいる方が、安心して落ち着いて、上手く魔法が使えんじゃねーの?
そりゃ、あっちの家の連中に厳重に取り囲まれて、近付こうにも近付けねーかも知んねーけどさ。
けど、それでも顔を見れば違うんじゃねーの? オレとタオが、側にいるって分かればさ。そんだけでも、ちょっとは気を楽にできんじゃねーの?
会話はできなくても、目線くらいは交わせるだろ?
それで、ホッとさせてやれねーのかな?
魔法を1個思い出すたび、辛い過去を1個ずつ思い出してたミーハ。
冷たい屋敷の冷たい部屋に閉じ込められ、冷たい連中に囲まれて、半端な量じゃねぇノルマを負わされて。魔法の詰め込み教育を受けてたらしい。
その実技も、相当なスパルタで。
『転送』も『帰宅』も辛い思い出にまみれてて。帰る家が分かんねぇって泣いてた。帰る家がもうねぇから、帰宅魔法が使えなかった、って。
つまり、この首都にある本家は、アイツの「家」じゃねぇハズだ。
『お、オレの家、は、ここで、いいんだ、よねっ?』
泣きながらオレに縋ってた、あいつの姿を思い出す。
柔らかな髪、細い肩、眉の下がった寂しげな笑顔……全部が愛おしくて、恋しい。会いてぇ。
……会うんだ。
「まあ、全ては明日だな」
タオがベッドに横になりながら言った。
ちらっと目線を向けると、ニヤッと笑われる。
「……だな」
オレもキッパリと同意して、灯りを消し、横になった。
同行は断られたけど、「行かねぇ」とは言ってねぇ。つーか、オレらは首都の住人じゃねーし、ただの賞金稼ぎだし。単独行動取ってたって、何の不思議も不都合もなかった。
ルナたちより先に行って、待ち伏せだ。
明日は早起きになりそうだった。
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