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最高の1日
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僕の人生はピアノ線やった。
この世に生まれてから26年……細い輪郭に鳶色の一重、厚い下唇、鼻筋がスッと通ったヨーロッパ風の顔立ちと1180センチの長身で手足も長い中肉中背のスタイルに恵まれたものの、良いことなんて1つもなかった。
まぁ、何も知らない人は『もったいない、まだまだ人生これからでしょ?』って諭すんだろうな。
でも、遺伝子だけしか残してないくせに、父と名乗るあいつに折られてしまうかもしれないくらいなら、いっそ僕自身で終わらせてしまおうじゃないか。
ダンボールに物を詰められるだけ詰め、必要最小限のもの……財布とスマホなどを鞄に入れ、仮初めの部屋を出た。
カギをポストに放り込み、階段を降りて駅へと向かっていく。
僕はこの町を出て、ある街へと行かなければならない……あいつに見つかる前に。
そして、僕はある人に最期の身を捧げることになっている……顔と名前しかしらんけど。
ある人との出会いは1ヶ月前のこと。
献血のことを調べていたら『全血液提供できます』と書かれたブラッドセーフというサイトを見つけた。
『最高の1日を私と過ごしてみませんか?』 というキャッチコピーと色白の肌にぷっくりとした唇で妖艶な微笑みを浮かべる、サタという彼に僕は目を奪われた。
形だけでもいい……僕を愛してください
僕はただそれだけを願って、キオという名前と顔写真を送った。
古き良き時代が残るある街に僕はやってきた。
でも、待ち合わせは完成する前から話題になった新しいものが見える場所。
まだ待ち合わせには早いけど、寄り道せずにその場所に向かう。
『ゑどころ まほろば』。
絵画が飾られているカフェで、2階がテラスになっているらしい。
外装はなぜか南国風の建物にドキドキしながら入っていく。
ドアを開くと、鈴の音が響く。
一歩進めば、目の前にひまわりの絵が見えた。
それに向かって歩いていくと、両端には浮世絵がズラリと並んでいる。
「はいさ~い、どうぞおいで、おいで♪」
聞こえた先に青髪マッシュのメガネを掛けた男性がいて、小さい手を振っていた。
同じ髪型なのに、その人はかわいい感じがする。
「あの~2階いいですか?」
「はいはい! どうぞ、どうぞ♪」
むふふと笑う男性はホイップを立てている。
「あの、黒髪の肌の白い男性は来ていますか?」
「う~ん、まだ見えてないですねぇ」
はい、どうぞ♪ と頼んでもいないのにストローカップで渡してきた。
泡が立っているクリーム色の飲み物が入っていた。
「当店自慢のチーズティー、あなたがカッコ良すぎるのでサービス♪」
アーモンドみたいな瞳で見つめられたら、受け取るしかない。
「今日は青いですよ。ただ、どのくらい青いかを感じるかはあなた次第です……大丈夫、どう思っても間違いはないので」
彼は穏やかに微笑む。
「今日があなたの最高の1日になりますようにと勝手ながら願わせてくださいな♪」
首をコテンと傾げるから、もはや女の子みたいだ。
「若いうちに死ぬのを怒らないんですか?」
この人だからこそ、聞いてみる。
「それも人生……よくここまで必死に生きてきたね。お疲れ様」
彼はまた穏やかに微笑む。
ああ、もっと前に出会いたかったな。
「わぁ、きれいやわ〜」
2階に上がると誰もいなくて、一番見える中心の席に座る。
僕の好きな青色が想像以上に綺麗で見惚れる。
でも、あの人が来るまで、あとどれくらいなのかわからないくて待ち遠しい。
僕はこの日のために、食事は健康的なものにして、ほどよく筋トレもしたーー全てはあの人のために。
僕の頭の中ではベートーベンのピアノソナタ第8番の悲愴の第2楽章が流れる。
でも、全然悲しくなんてない。
むしろ、ワクワクしていた。
「早く来ないかなぁ〜」
本当に最高の1日になるのか、僕はまだ知らないんだ。
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