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焼肉店を出た俺は、まず振り出しに戻る事にした。
忍と一緒にいた場所は、店、そして病院だ。
店の希望が無くなった俺は、病院へと足を運んだ。
新型コロナの影響で、一般病院へのお見舞いは禁じられている。
ただしホスピスに限っては、その病棟の特殊性から認められていた。患者の親族であれば入室出来るのだ。
その際、部屋番号、訪問者の名前、続柄、連絡先の記入が必須。
・・・ちくしょう、部屋番号が思い出せない。
まさかこんなところで使うことになるとは思わなかったから、覚えていないのだ。
忍が受付で記入していた時も、後ろに控えて荷物持ちをしていただけだった。
・・・タイムスリップ出来たら、絶対あの時の俺に蹴りを入れてやるのに!
という訳で、昨日忍と入った病院の入り口付近で待ち伏せすることにした。
------------※ ※ ※------------
日曜日ということもあって、訪問客は少ない。
それにホスピス病棟自体、そうたくさんの部屋がある感じではなかった。
・・・辛いだろうな。
死が間近に迫るおばあちゃんの前で、自分じゃない人を演じるのは。
おばあちゃんは、一度も忍の名前を呼ばなかった。
21年間共に過ごして、愛情は芽生えなかったんだろうか。
厳しく育てていたというのは、あのおばちゃんなりのオブラートに包んだ表現だったんだろうか。
愛娘が悪い男との間に作った子ども。
そして、その子どもが娘の命を奪ったと思っているようであれば、憎しみの中で忍を育てていた?
思い出すのは、おばちゃんが言っていた腕のアザ。
もしかして、背中にも付いていたなんてことは、無いだろうか。
悪い想像が頭を巡って、吐きそうになった。
死の淵にいるおばあちゃんを、憎々しく思って呪いそうだった。
忍に、聞かなきゃ。
本人に、おじいちゃんとおばあちゃんに、どんな躾を受けたのか、確認しなきゃならない。
でないと、勝手な想像に記憶が塗りつぶされて、おばあちゃんに笑顔を向けれる自信がなかった。
昼からずっと建物の角に立ちっぱなしだ。
ずっと忍を待っている。
面会可能時間まで、こうやって待つつもりだ。
「・・・忍。」
店を閉めて、君はどこに行ったんだ?
早く忍に会いたい。
会って、抱きしめて、そして・・・!
「・・・どう、する?」
キスをしている自分が見えて驚いた。
忍を想うと、胸が焼け焦げそうになるくらい側に居たくて仕方がなくなる。
この想いには、記憶があった。
まさか、自分が。
「・・・片想い?」
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