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「お疲れ様。」
そう言って賄いを出してもらったのは、店が落ち着いた16時過ぎてからだった。
「・・・めちゃくちゃ疲れました。」
そう、本当に疲れた。
この喫茶店は、パチンコ屋の裏手の景品交換所横にひっそりと建っていた。
何度もこの辺りは通った事があるけど、パチンコをしない俺はこんな裏通りに入った事がない。
だから全然、この喫茶店の存在を知らなかった。
「お客さんは、だいたいパチ屋に通う老人が多いんだ。開店前の整理券を貰ったら、うちで朝メシ食って、開店したら消えてくけど、負けたらまた戻ってくる感じ。」
なるほど。
この店は、彼らにとって憩いの場なのか。
そして何より、都内だというのに値段も良心的だ。
「忍さんは、ここを手伝ってるんですか?」
「ん。オーナーだって言ったらどうする?」
マスクをしてても分かる。
多分隠された口元は、にんまりと笑っている。
「普通に尊敬します。」
目の前に出されたナポリタンの良い匂いを嗅ぎながら、俺は素直に答えた。
忍さんは一瞬、虚をつかれた顔をして、俺をまじまじと見つめた。
「・・・びっくりした。笑われるかと思ったのに。」
なんで笑う事があるだろう?
こんなに働き者で、お客さんとの関係も良い。
料理も美味いし、コーヒーなんて絶品だ。
「笑いませんよ。切り盛りしてスゴイと思います。」
「あっそ。」
そっぽを向いた首筋が赤くなっているのを見て、なんだか可愛いと思った。
「良いから食べろよ。食べたらついてきて欲しいところがあるんだ。」
ぶっきらぼうに言われた言葉に、俺のフォークを握った手が思わず震えた。
・・・もしかして、警察とか?!
あり得ない話じゃない。
暴行罪で間違いないのだから。
「あ、あの!」
「大丈夫だよ。変なところじゃないから。」
忍さんのことが分からない。
暴行した(と思われる)俺に、優しい。
時折、脅すようなことを言うし、さっきまでコキ使われてもいたけど、こうやってメシを食わせてくれる。
愛人と うそぶくかと思えば、変なところで真っ赤になる。
・・・不思議だ、目が離せない。
忍さんはこの喫茶店に不似合いなのに、しっくり馴染む。
オーナーだって言われても、納得できた。
ナポリタンに入っている薄く刻んだ玉ねぎをフォークで掬い取りながら、俺はコーヒーを淹れている忍さんを盗み見た。
・・・やっぱり男だよな。
角ばった肩も、平な胸も。
長い指も、全て男のパーツだ。
なのに変な色気を感じるのは、ちゃんとは覚えていないけど、抱いたせいなのだろうか。
「あの、忍さんは?」
「ぼくは後から。」
働きっぱなしの忍さんは、平気な顔をしていた。
少なくとも、朝食は俺の前に採ったはずだ。
お腹空いているだろうに・・・。
「お客さんには悪いけど、店を閉めて出掛けようと思うんだ。そこで食べるから大丈夫。」
サイフォンのコポコポと沸騰する音が聞こえてきた。
忍さんは、作ったばかりの玉子サンドを丁寧にラップに包んでカウンターに置いてから、店の入り口を閉めに行った。
・・・本当、若いのにすげぇな。
ケチャップがたっぷりの絡んだ太めの麺を啜りながら、そのすらりとした背中を眺めた。
同時にいくつもの注文をこなして、店を捌いていく。
この子、本当にすげぇヤツだ。
自分に同じ事をやれと言われても無理だ。
久しぶりに尊敬できる人を見つけたというのに、その相手と、昨日寝てるというのは、
「・・・運命?」
「あん?」
「何でもないです。」
嫁と別れて、加藤に救われて、忍さんにどん底に落とされて、またその人から救われた。
汚れた大人である自分から見たら、忍さんは若さもあってキラキラ輝いて見えた。
「ね、歩さん。」
「はい。」
ナポリタンを頬張る俺を、忍さんは真剣な目で俺を見下ろした。
「これから行く場所では、なるべくぼくとイチャイチャして欲しい。」
「え?」
意味が分からず呆然として見上げると、彼は俺の肩に手を置いた。
「それが終わったら、解放してあげる。」
謎の発言に、俺はフォークをゆっくりと皿に戻したのだった。
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