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泣いたせいか、頭がスッキリしない。
でも、気持ちは不思議なことに落ち着いた。
・・・そういや、涙にはストレス成分を低下させる作用があるって雑誌で見たことがあるな。
何年かぶりに泣いた。
忍にも泣くことを勧めてみよう。
馬鹿じゃないの?って言われそうな気がするけど。
財布と携帯、本を持って部屋を出た。
嫁の靴が無くなったシューズボックスは、笑えるほどに空っぽだ。
些細なことをするたびに、自分はひとりなんだと突きつけられた。
いつもの場所に置いた鍵。
元嫁が用意してくれた、牛皮のトレイの中だ。
彼女は『いつも朝から探すんだから!帰ってきたら、ここに置くって決めて。』そう言って置き場所を習慣付けさせられた。
おかげでひとりになってからも、朝から探す事がない。
全てが積み重ねだと、今更分かった。
忍。
毎日会いに行ったら、忍の心も解れていくだろうか。
ね、忍。
『さっさと持って行ってよ。』
そう言って、客の料理を手渡してくれるだろうか。
俺に出来ることは少ない。
少ないけれど、一緒にメシを食うことは出来る。
もう抱かないって、忍の心を弄ぶようなセックスはしないって決めている。
友だちのように肩を組んで、今度こそ忍の心に寄り添いたかった。
モーニングの時間は過ぎて、ランチタイムに入ろうかという時間だ。
今も忍は、忙しく働いているに違いなかった。
紙袋に下げた本は、昨日、忍が読んでいたマンガ本だ。
続きを貸すという名目で持ってきた。
でないと、何故会いに来たんだと聞かれたときに、上手く答えられない気がしたからだ。
保険を掛けるための、本。
こんなところにも言い訳を用意する、自分の弱さが滲み出ていた。
駅を出て、右。
パチンコ屋の奥の細道から入って、三番目。
店の前に来て、俺の手から紙袋が落ちた。
『テナント募集中』
その赤い文字は、忍に会えるという現実を否定していた。
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