アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
66
-
その頃、外では。
「お帰り、小夜。」
「お待たせ。」
風見さんは、不動産屋さんの駐車場で待っていてくれた。
鬼のパンツを履いたおれたちは、めちゃくちゃ目立ってたわけで。
「あんまり遅いから、警官に職質でも受けてるんじゃないかと思ったよ。」
「ふふ、それは大丈夫だったよ。」
後ろから付いてきた加藤さんと光太郎くんは、風見さんにぺこりと頭を下げた。
「風見、助かった。」
「全く、お前ってやつは。」
加藤さんから連絡があったのは、昨日の朝だ。
それも風見さんを通さずに、直接おれに連絡してきた。
加藤さん曰く、「風見に言ったら絶対断られるから!」だそうだ。
勤務する認定こども園では早番遅番があり、ちょうど今日は早番の日だったから、どうにかこうにか帳尻を合わせてやってきた。
ちなみに光太郎くんは、勤務する社会福祉法人の幼稚園の園長先生に事情を話して早退きさせてもらったらしい。
風見さんと光太郎くんを巻き込んだのは、おれ。
「暁(あかつき)さん、ごめんね?」
「もう!小夜は優しすぎるぞ。」
風見 暁さん。
おれの魔法使いだ。
「ふふ、風見さん、お元気そうで何よりです。」
「あ、山田さん。ご無沙汰しております。」
「すずがいつもお世話になっております。」
山田さんと鈴谷くんも紆余曲折あったみたい。
鈴谷くんは、風見さんの部下だ。
「風見さん、その。本当に送ってもらってもいいの?」
光太郎くんの言葉に、風見さんは笑顔で答えた。
「光太郎くん、その格好で電車に乗るのは勇気がいるだろ?」
光太郎くんは、おれのお友だちで専門学校の同期だ。
そして、
「お前は歩いて帰れ!」
「ええー?!そんなぁ〜っ!!」
加藤さんと風見さんは会社の同期で、風見さんの部下になる。
「石田に迎えに来てもらえばいいだろう?」
「絶対、咲ちゃん嫌がるって!」
石田 咲さん。
会社の同期で、加藤さんの彼女だ。
新型コロナの影響で、なかなかみんなと集まれない。
久しぶりに揃ったメンバーで話をするのは楽しかった。
「コロナが落ち着いたら、みんなでご飯に行きましょうね。」
そう言って、手を振る山田さんと別れた。
「情けで乗せてやるんだからな。」
と風見さんが言うのは加藤さんへだ。
みんな元気で、おれは凄く嬉しかった。
「で、その子は元気になった?」
「うん、ちゃんと笑えたし、ちゃんと泣いた。」
「そっか。」
家族が死ぬって辛い。
だけど、いつかは乗り越えないとならないことだ。
「じいちゃん、元気かな。」
「きっと元気さ。」
じいちゃんのいる長崎でも、そろそろワクチンの接種が始まる。
幼稚園や保育園などに勤める人も、ワクチンが優先される自治体もあるらしい。
たくさん接種した人が増えれば、必然的に感染者が少なくなる。
だから、たくさんの人に受けてほしい。
「あ、大輔さんからだ。」
光太郎くんが携帯を見て声をあげた。
「今日は早く帰ってきてくれるって。」
「光太郎くん、良かったね。」
自宅に、イタリアンのシェフとそのパートナーさんが同居しているらしく、毎日が美味しい料理で太りそうだと笑っている。
本当はレストランをオープンする予定で雇用したシェフらしいけど、このコロナ禍でお店を早々に手放してしまったらしい。
山下さんも、スタッフを大切にする人だ。
一度雇用した人は、どうにか工面しながら雇用を継続しているらしい。
「みんな色々あるね。」
でも、コロナに負けるな!で踏ん張っているのだ。
「また明日も頑張ろうね。」
それぞれの家の近くで降ろした彼らに手を振り、励ましあった。
「ね、暁さん。」
ふたりっきりになった車内で、風見さんに声をかけた。
「ん?」
「改めて暁さんのこと、大好きだなあって実感した。」
運転する横顔が、笑みを刻んだ。
「俺も小夜のことが好きで堪らないよ。」
ああ、幸せ。
忍さんも、いっぱい幸せになってほしいな。
そう思いながら、おれは運転する風見さんの上着を、ギュッと握ったのだった。
------------※ ※ ※------------
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
66 / 201