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皆、何が起きたのか分からなかった。
あまりにも想定外の言葉は、その意味を結ばずに耳を通り抜けていくからだ。
瞬きをし、一斉に首を傾げた。
・・・何て言った?
おのおの、そっと目配せた。
・・・なんか、今聞いたよね?
不思議な言葉を聞いたのだ。
まるで恋人の父親に結婚の承諾を得るような、そんな言葉だ。
だけど、状況的にオカシイ。
絶対にオカシイのだ。
歩ももちろんその混乱の頂点にいる状況で、腕の中の忍の発言を必死に思い出していた。
・・・いま、変な言葉を聞いたぞ。
目の前の大久保氏は、顔を真っ赤にしたと思えば真っ青になったりと忙しい。
その変動激しい顔色を見ながら、この場にいる全員がおおよそ言って欲しかった言葉を言ってみた。
「・・・忍、いま、なっつった?」
すると忍は真っ赤な顔で言ったのだ。
「歩さん、前後しちゃったけど、結婚の申し出、受けさせていただきます。」
・・・プロポーズをした覚えのない歩は、思わずタタラを踏んだ。
「えっと・・・。」
両手で口を押さえている小夜へ、風見は勇気を出して小声で聞いた。
「この人が新里さんだよね?」
忍さんを抱きしめながらよろけた男性を指さした。
小夜がこくこくと頷いたのを見て、風見は更に首を傾げた。
「この人は?」
背広の男性を確認すると、小夜は消え入りそうな声で話した。
「・・・誰かのお父さん?」
この場にいる全員が信じて疑わない、忍さんの父親。
だけど、忍さんはそう思っていないようだった。
この場にいる全員が思った。
頼む!
忍(ちゃん)、誰だと思っているんだ!
答えてくれ!
小夜の好パスを、忍は綺麗に無視した。
「歩さん、今までごめんなさい。ぼく、良い子になる。」
視界の端にいた不動産屋のおじさんは、頭を抱えたまま静かに床に撃沈した。
「ぼく、歩さんのために頑張るから。」
「あ、ああ・・・。」
煮え切らない返事をした歩に笑いかけた忍は、次に床に座り込んだ不動産屋のおじさんに向かって指を突きつけた。
ふわっと春の風が店内に舞い込んだ。
「あなたがお父さんだったなんて、許せない!でも、・・・頑張ろうと思います!」
誰がなに?!
そしてなにに頑張るわけ?!
そして、店内が春の嵐に襲われた。
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