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マモル
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「ねぇ、さっきマモと一緒にいた子、【サナギ】くんでしょ?」
「サナギ?」
「そ、サナギ」
揚羽との昼食に声を掛けてきた先輩と一緒に5限の授業をサボった。
音楽室は防音が利いているため、相手がどれほど声を上げても問題はないから楽だ。
幸い、5限に音楽の授業をするクラスもなく時間を気にすることもなかった。
着崩れた制服を整えながら話す先輩から出た【サナギ】とは、たぶん揚羽のことだろう。
「何で【サナギ】なん?」
「んー、私も人から聞いたんだけど、あの子のお母さん元女優の蝶野花代でお姉さんはモデルのLuriらしいじゃん。それで、あの子の名前は【アゲハ】なのにあの子自身は全然パッとしないから、羽化する前の【サナギ】の方が似合うってずっと呼ばれてるらしいよ。アタシも今日初めて見たけど、確かに、サナギの方が似合ってるって思った」
「ふーん」
なんか釈然としない。
前髪で隠されているけど、揚羽は普通に綺麗な顔をしてるんじゃないかと思う。
なのに、何で誰も揚羽自身を見ずにパッとしないなんて思うんだ?
「あれ、マモ、怒った?」
「怒ってないよー。でも、名前はちゃんと呼んであげて欲しいなーって思ったかな」
「うーん。私、あの子とは関わらないから、そんなこと言われても……」
「あーそうだよねー。ごめんねー……あ、じゃあ、俺行くね」
「えっ、マモ⁉︎」
俺は笑顔で言って、先輩を置いて音楽室を出た。
揚羽と関わるようになったのは、気まぐれだった。
一緒に居ても俺ばっかり喋って、揚羽はあまり喋らない。
途中で女子に呼ばれて居なくなっても文句も言わない。
なのに、おかずを強請ると文句を言いつつ分けてくれる。
最近では、俺の好きな唐揚げと玉子焼きを多めに弁当に詰めてきてくれる。
時間潰しのつもりで一緒に居たはずだったのに、その隣りがあまりに心地よくて、そう感じる頃には揚羽を知りたいと思うようになった。
特に、揚羽が何故【サナギ】と呼ばれているか、を。
色んな人にそれとなく訊いたが、皆、答えは同じだった。
家族が芸能人で華やかなのに、揚羽は【アゲハ蝶】らしくない。
家族が有名人で、虫と同じ名前というだけで、何故、比べられて貶められているのだろう。
揚羽が前髪で顔を隠し、人の目からも隠れようとするのは、その積み重ねからかもしれない。
「絶対、綺麗だと思うんだけどな……」
ちゃんと見たことのない顔だけど、確信できる。
たぶん、その顔は誰よりも……。
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