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マモル
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あの女の彼氏から逃げている途中で、揚羽が転んだ。
俺が引っ張って走ったから、足がもつれたのかもしれない。
掴んでいる手首を引き上げ立ち上がらせている間に、男はだいぶ追いついてきていた。
苦しそうに呼吸する揚羽の様子に、これ以上逃げるのは難しいと思った。
かと言って、揚羽を置いていったらあの男に捕まってしまう。
あの女の言う通り男が暴力を振るう奴なら、揚羽は殴られるかもしれない。
それどころか、もっと辛い目に合わせられる可能性も。
そうなっても、揚羽はきっと口を割らないだろう。
そんな揚羽を置いてはいけないし、置いていきたくない。
どこかに隠さなければ。
俺は揚羽を引っ張って近くのゲーセンに駆け込んだ。
そのままゲーセンを通り抜けて、別の自動ドアから出て、駅近くの複合施設に入った。
エスカレーターを何階か駆け上がって、フロア奥にあるトイレに入った。
別々に入って、俺が囮になって揚羽を逃がそうと思っていたが、3つある個室は2つ埋まっていた。
その1つの一番奥の個室には【故障中】の紙が貼られていたため、そこに2人で入り鍵を掛け、息を殺す。
狭い個室では必然的に揚羽と体が密着して、バクバクと立てるお互いの心臓の振動が伝わった。
個室の1人が出ていき、用を足しに2人ほど出入りしたところで、俺たちを追い掛けていた男が「おいっ」と声を荒げて入ってきた。
肩を小さく跳ね俺のシャツの裾をキュッと握る揚羽の体を、そっと包む。
男の足音がトイレの奥まで近づいてきたが、個室ドアの張り紙を見たのか「チッ」と舌打ちをして、ノックをすることなく出て行った。
「ふー、焦ったぁー」
「ぅわっ」
男の足音が聞こえなくなり、ホッと脱力して便座に座り込むと、胸に抱いたままだった揚羽は、向かい合う形で俺の膝の上に座った。
転んだ揚羽を引き上げた時も思ったが、膝の上の揚羽は想像以上に軽い。
ふらつく腰を支えると、今まで抱いてきた女のように細かった。
男が入ってきた時、息を我慢していた揚羽は力が入らないのか、俺の肩に顎を乗せ体にもたれ、咳き込みながら呼吸をした。
「揚羽、大丈夫か?」
「ゲホッ……は、はい。なんとか」
背中をさすると少しずつだが、揚羽の呼吸は落ち着いてきた。
柔軟剤の香りに混じって、揚羽の汗の匂いがした。
「あ…」
「ん?」
「すみません。シャツに血が……」
「ち?」
揚羽の視線を追うと、シャツの腕の部分に赤いシミが付いていて、そこを触れていた揚羽の掌にも血が滲んでいた。
その手を取り傷の具合を確認する。
転倒時に怪我をしたのか、掌には擦り傷ができていて、まだ少し血が滲み出ていた。
「あの……」
「シャツはいいよ、すぐ洗えば落ちるし。それより、コレ痛くないか?」
「え、あー大丈夫です。洗って絆創膏貼れば……って、何してるんですか⁉︎」
「ん、消毒」
動揺する揚羽に構わず傷口を舐める。
揚羽の汗の匂いのせいか、鉄っぽいはずの血の味が甘く感じた。
俺の行動に驚き固まっている揚羽をいいことに、舌で指の間をなぞるように舐め、その先にある指先を咥えた。
甘噛みをしながらふやける程舌の上で転がすと、揚羽の口から甘い吐息が漏れた。
至近距離にいる揚羽の前髪をかき分けると、いつも前髪に半分以上隠されていた瞳と目が合った。
初めてちゃんと見た揚羽の顔は、透き通るように白く、瞳は丸く大きかった。
「揚羽の顔、綺麗だな」
俺の言葉にビクリと肩を跳ねた揚羽の瞳は熱を持ったように潤んできた。
再び息が上がり、ほんのりピンクだった頬は、俺の言葉で一気に耳まで真っ赤になり、揚羽は瞳を下に逸らした。
俺は、長いまつ毛に陰るその瞳に誘われるように唇を寄せた。
「ぁ……せんぱぃ……」
「あげーーんんっ」
俺の唇は揚羽の唇には辿り着かず、もう一方の掌に当たった。
「ちょっ……何してるんですか⁉︎あと、傷口舐めるのは口の中の細菌が入るからダメなんですよ」
分けた前髪は揚羽が動いたことで元の場所に戻り、いつもの揚羽に戻った。
揚羽は俺を押しのけるように膝の上から降りて個室から出て行った。
「あー何やってんだ俺……」
長いため息を吐いて、自分と揚羽のバッグを持って個室を出た。
揚羽はまだ手を洗っていた。
顔は見えなかったが、髪の隙間からチラッと覗く耳は真っ赤なままだった。
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