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琳くんの家なんて地区すら知らない。
遊園地は行ったことがないから行ってみたいと言ったけど却下されて水族館になった。
大通りなんて2人っきりで歩いたことない。
どれを取っても完敗だった。惨敗だった。
「……琳くんから告白したの……?」
「は、はい。何回か断ったんだけど……あいつすごい執着するじゃん!?ずっと付け回してくるしそもそもデートだって何回も頼まれて」
「もういい……」
「1回だけって言ったのにそれ以降も誘われ続けるし俺はずっと断ってるのにあいつが」
「もういい!!」
「っ、!!」
シン、と辺りが静まり返った。龍太も何が起きたのか、何故俺が泣いているのか、大きな声を出したのか分かっていないのか困惑しているようだった。
「もう聞きたくない!!俺への当て付けか!?琳くんに簡単に切り捨てられた俺を嘲笑ってんのかよ!?そうだよどんだけ俺が執着しようと彼に手は届かない!!」
龍太は目を丸くして俺が何を言っているのか分かっていないようだった。
「けどやっと!やっと琳くんに届いたと思ったのにお前のせいで!!俺がどんだけ苦労してその地位を得たと思ってんだよ!何回も断ったって俺に自慢でもしてんのかよ!!なんで俺がッ、お前なんかの為に知らないおっさんに身体売らなきゃなんねぇんだよ!!」
「ゆず。」
いつもの俺に話しかけてくれる声では無かった。刺刺しい声音だった。
愛しい彼は俺を冷たく見据えていた。
「さっき祝福してくれと言っただろ?俺の言うことが聞けないのか?」
それは呪いのような言葉だった。
何年も何年も繰り返し言われ続けたその言葉を聞くと彼に従わなくてはならないと思ってしまう。
ただ、何故だか今は酷く苛立っていた。愛しくて普段なら琳くんに苛立つなんて有り得ないのにやり場のない怒りが腹の中で渦巻いていた。
「ッッもう聞けない!!俺はっ、好きな人が知らない奴と付き合うのを祝福なんて出来ない!!俺は琳くん以外に抱かれるなんて嫌だった!琳くんが行けって言ったから風俗で働いただけ。こいつの借金の為じゃない!!」
「え……?どういうことだ、琳!?」
「龍太は気にしなくていい。おい優杏。落ち着け。」
「帰ってきたら恋人の座が奪われるなんて分かってたら琳くんの命令でも絶対風俗なんか行かなかったのに!!」
俺の叫びに龍太は顔色を悪くして目と口を開け驚愕していた。
琳くんは機嫌悪そうに俺を睨んでいる。
他のメンバーは気まずげに視線を逸らしていた。
「おい琳!どういうことだ!?誰にでも身体売るビッチな知り合いじゃなかったのか!?お前の恋人だったのかよ!?」
「…あー、恋人って言うか付き合ってくれって頼まれ続けたからOKしただけで恋愛感情はなかった」
「~~最ッ低!!」
知っていた。彼が俺のことを好きでもなんでもないことなんて。それでも実際に聞くと心が抉られるようだった。
「…もう琳くんには会わない……家賃も食費も払わないしお願いも聞かない……もう疲れた……もう……好きでいるのがしんどい……」
「お前そんなのまで払わせてたのかよ!?」
「…払ってくれるって言うしこいつブラックカード持ってるし」
「ブラック…!?」
ぼろぼろと零れ落ちる瞳で琳くんを見上げる。あんなにキラキラと輝いていたように見えた彼は今はただの顔の整った人、程度に見えた。
僕の神様は何処かに消え去ったらしい。
「…あの日助けてくれたこと今でも…これからも永遠に感謝してる……水族館に連れて行ってくれたことも…形だけでも付き合ってくれたことも……」
一方的な想いだった。彼が誰かを愛するなんて想像も出来なくて、だから片思いで良かった。
幸せだった。
お金が目当てだったとしても。使い勝手の良い下僕だと思われていても。
初めて誰かに必要だとされた。
メンバー達はいつもニヤニヤと俺の事嘲笑っていたけどこんなに感情を顕にして話せる相手なんていなかったからなんだかんだ楽しかった。初めて友達が出来た気がした。
「…ありがとう……さようなら。」
俺は琳くんに背を向け走り出した。ここは俺の部屋だった場所だ。だから隠し扉があることを知っていた。そこから外に出れることも。
背後から呼び止める声が聞こえたけど聞こえないふりをして走った。
もう一度皆の顔を見てしまうとその場に泣き崩れてしまいそうで。
「~~あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
今日俺の唯一の神様も大切な場所も彼への愛も全てが一瞬で消え去った。
もう執着なんてしない。
俺は独りで生きていく。
Fin.
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