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梔子(2)
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俺には宇治原のように生まれつきの強者で、豊かで、明日、根本的に暮らしてゆけるか考えたことも、喰われる心配をしたこともない人間のことは、理解の範疇を超えている。
彼は、底抜けに優しかった。
俺に向かってくる求愛も、詩を諳んじて見せるとか、他愛のない会話や笑みとか、それだけで、俺には、拍子抜けするような事実だった。これまでの経験上、そんなものを向けて求愛してくる人間はいなかったし、求愛、というよりは、鬱々とした暗い欲求の捌け口に使われてしまう、という危機感のサインしか、俺は感じたことがなかった。
今日も彼に誘われて、普通であればαしか歩けないのであろう、閑静なショッピング街を歩く。あの銀河ステーションからこじゃれた―まるで、旧世代のSLでも模しているかのような宇宙船に乗って、彼の住居や、そこにあるショッピング街へは着く。
「どうだい、興味深いだろう。」と彼は風変わりな言葉を選んで俺に話しかけ、このような人がなぜ俺なんかを選んで、この休日のデートに誘ったのかさっぱりわからなくて、俺は戸惑う。
宇宙空間へ出ても人の心は旧世代の地球の光景を懐かしむものらしくて、このショッピング街でも、くちなしの花の香水のように官能的な香りは匂い、俺のΩの匂いを打ち消してくれている。
人口雨が上がった後の景色を楽しみながら、俺をまるでか細いもののように、宇治原はエスコートをする。
「君は、運命を信じるかい?」
と、宇治原が唐突に聞いてきた。信じられるわけがない、と喉まで出かかって、その言葉を慌てて飲み込む。
だめだろ、それは言ったら。
宇治原サンは、俺との運命を信じて、俺を買ったらしいから。
「わかりません。」
かといって自分に嘘をつくことはできず、そんな言葉しか出てはこなかった。
「僕は、運命を信じている。こんなことを言ってしまえばただの束縛でしかないけれど、君にも運命を信じてほしいものだね。」
束縛と分かっていて言ってしまうのは、どういった心理からなのだろう。測りかねて黙っていると、宇治原は、
「君にプレゼントだよ」と言って、小さなネックレスをくれた。
ネックレスのトップに光る小さな石は、まるで中に宇宙をはらんでいるかのように中で無数の銀色の小さな粒が光っていて、
「きれい。」と思わず声に出せば、
「君の一番の憩いの場所は、職場である焼肉店なんだろう?そこでも、これなら仕事に差し障りなく付けられると思ってね。できれば、身につけておいて欲しい。」と言う彼。
「ありがとうございます。」と礼儀正しく言う俺からは、まだまだ警戒心は抜けきってない。
だが、ある程度気の置ける人物だということは、今回のデートで分かったのだった。
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