アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
6
-
「ご到着です」
着いた先は墓場で、そこでようやく、彼は僕の手を離した。
「すごくないここすごくない? 公園の横にいきなりお墓。マジ怖。ほん怖。イワコデジマイワコデジマ~言うてね」
右手に公園、左手に墓場の、丁度中間にある場所で倫太郎は意味不明な呪文を唱える。
「涼しいな」
「やっぱおばけとかが出るから」
「……………出るから?」
「え、え、出るから、なので、あの、ひんやり」
「論理的に」
「えっ、えっ、おばけの出るとこは寒いのだ」
「具体例」
「えーと、えーと、なんかそんなんあんじゃん。霊気は冷気」
「つまり?」
「プラズマがさあ。プラズマのせいなんですよ」
「そうなんだ?」
「あれ? おれイジメられてる? よかった、元気だね」
人の腕をぽんぽん叩いて、インスタ用に写真を撮るのだと、彼こそ元気に墓場と公園を行ったり来たりする。
「でもねえ、あれだよ。鍵垢。別垢。さすがに親に怒られる」
「怒るじゃなくて叱るって言うんだよ、それは」
「皆塾とかバイトとか遊びウェーイとかで夜、外出てるのに、おれは駄目なのつらたん」
「君に何かあったら困る」
「酸いも甘いも経験して人は成長していくのですよ」
「そうですね」
「そうですよ」
夜は墓場で運動会、と歌い始めた彼に、いよいよ本気で脱力した。それかあ。またアニメでもやってるんだろうか。
余計なことを考えててよかった。
気が紛れる。
死んだ人間たちの行く末を、散歩する。大団円はとうに終わり、役目を終えたのに、僕だけがまだ目解礼介役でいる。まるで亡霊だ。この世界のどこにも居場所がなくて当たり前で、使命はもう生まれない。
罫の墓参りに何年も行ってない。思うだけでつらい。いないことを認めるのがつらい。
「…………………どうした、倫太郎」
急にまたペッタリとひっついてきた子供を見る。
「んん、なんか、……消えちゃいそうだったから。礼介くん」
「人間はそう簡単には消えないよ」
「必ずどこかに仕掛けがあるはずだ?」
「……なに? それ」
「『笑う透明人間』での台詞。自分で言ったの覚えてないの?」
「そんなこと言ってないよ。罫はだいぶ脚色して書くから……」
「そうなんだ? 本当はなんて言ったの?」
「そこまで覚えてない」
「そっかあ」
「うん。なんでだろうなあ、」
言葉は思わず、口をついて出た。
「誰もいないんだな、もう」
目の前に広がる、ただの石の細工物。
生きているより、死んでいる人の方がよく知っている。もう誰もいない。もう誰も生きてはいない。捜査中に命を落とした警官の顔さえ、はっきり思い出せる。
愛した人も親友も、そばにいない。今は冷たい記憶の底に眠るばかり。
なんで、いないんだっけ。
「おれがいますけども」
強く手を握られて、生きているから痛みと熱を知る。泣くつもりはなかった。人前で恥を晒すことも、それを未熟な若者相手にするつもりも更々なかった。それでも涙は止まらなくて、名探偵でも天才でもない僕は、ただ声を出さずに泣いた。
願わくば時代の終わりと共に、僕も死んでしまいたかったのだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
18 / 387