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「可愛いでしょ」
「どこが?」
もう、貴方ったらちっとも女心を理解しないんだから。彼女は頬を膨らませて僕を睨んだ。
「ほんと、女性に不慣れなのね。礼介さんって」
「可愛さを追求している場合か? 命を狙われているんだぞ」
走る夜行列車の中で、僕は大きく息を吐いた。まだ彼女が生きていてよかったという安堵。急に姿を消した彼女への怒り。脳を酷使して彼女の行方を突き止め、今度はひ弱な身体を酷使して、なんとか駆けつけた。遅れてどっとやってくる疲労。
真っ青なワンピースドレスの、胸元に描かれたペンギンの子供が、じっとこちらを見つめてくる。うっとうしい。
「死ぬなら美しくありたいの」
「君はいつも美しいよ」
「あら、ありがとう」
にっこり微笑んだ彼女の、向かいの席に座る。
「……………どうして逃げた」
「ごめんなさいね。これ以上迷惑かけたくなかったの」
「本音は?」
「私一人で出来るわ」
側に置かれた小さなハンドバッグに、彼女は手を置く。中には拳銃か。…………服と同じ色の爪を眺める。彼女は青より赤の印象が強い。燃えるような命の強い輝き。
「女一人に何が出来る」
「あら、差別だわ」
「事実だ」
「うーん、礼介さんより体力あるんだけどな。息切れくらい止めたらどう?」
「数分かかる」
ぐったりとした僕を見て、彼女は呆れながらも笑う。口の端の緊張。まとめた髪。ヒールのない靴。悲しい決意。この列車の行き先。
「………………君にそんな真似はさせない」
「貴方が思ってるほど、私、いい人じゃなくってよ」
「いい人だよ、君は」
「礼介さんって、本当に名探偵なのかしら。角川先生のがよっぽど私のこと見抜いてたわ」
「あれはただの女好き」
「あら、本人のいないところで悪口?」
「むこうだって散々言ってるさ」
「こんなところにいないで、帝都でお友達と探偵ごっこしてなさいな」
「君に人は殺させやしないよ」
「………………貴方には解らないわ」
「解りたいと思ってる」
「お優しいのね。興醒めしちゃう」
「もっと興醒めすることを言おうか」
「やめてくださいな」
「君が好きだ」
列車は長い長いトンネルへと入り、轟音が鳴り響く。
暗転。
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