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ある日、階段で丸まっている幸多を見つけた。
おかしいな。お抱えの運転手の鈴木さんが校門の前で待ってるはずだ。本家の次期御当主様は、珍獣か絶滅危惧種みたいに丁重に保護されている。どうしたのか声をかけたら、幸多はめちゃくちゃに可愛い困り顔をして、おれに話をしてくれた。
はいはい。ふむふむ。あれ、これって、おれにチャンスじゃね?
本家ご子息が直々に出向かうレベルで、今も名探偵は世間から姿を消してなお大切にされているらしい。会ったこともない大人にいきなり対面しろと言われてビビるのは普通で、しかも今回のケースは一族にコンプレックスを抱えてる幸多と、彼の憧れの名探偵だ。いやいや、ううん。
たいしたことないように明るくつとめて、おれは替え玉作戦を口にした。いやいやでも、と尻込みする幸多に、とどめの一言。友達と遊べるよ。お前がずっと望んでたことだよ。
人に騙されたことも裏切られたこともないお坊ちゃんはあっさりおちて、なんでそこまでしてくれるのかと、まるでおれを聖人扱いしてくる。なんでってそりゃ、好きだからに決まってるじゃない。
ま、本当に名探偵なら秒で見抜く。駄目なら駄目で、それまでだ。おれは幸多に教えてもらった住所にむかう。緊張。
優しそうなおばちゃんが出てきた。あらお洒落。今日デートらしい。可愛い。
現れた人は、まるで亡霊のようだった。
ナナフシみたいに痩けた体。憔悴と悲しみの張りついた表情。白っぽいようなグレーみたいな色の着物……いや、和服っぽいけど、ちょっと作りが違うな。光に当たると僅かにきらめく。でも部屋は暗いから、なんだか本当に死装束みたいだ。体型を隠すように、膨らんだ袖や裾。
この人をいじめてはいけない。めちゃくちゃ試す予定だったのに、ものすごく、……可哀想、だと、思ってしまった。
挨拶をシカトされるまでは。
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