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一生
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夏に。恋の湿った手のひらを握った。俺は受験のことで頭がいっぱいで、恋の前で号泣した。恥ずかしい話だけど、正直、恋と毎日触れ合えないのは辛い。毎日傍にいたい、それなら今の時間を犠牲にしてでも、一生恋と居られたらそれでよかった。
恋が言ってくれた、一緒にがんばろう、その言葉だけが俺の励みだった。必要としてくれてる、必要と、してくれてるんだ、俺のこと。
恋も俺を愛してやまないのだと、そう、思っていた。
ぎち、ぎち、と、締め殺されそうな感覚を忘れてしまっていた。浮かれていた。今さえ頑張れば、あとはハッピーエンドだと、思っていた。
毎日一緒に寝て、俺のことを恋が起こしてくれて、キスをして、ご飯は二人でつくって食べて、恋はバイト、俺は大学にむかって、恋が帰って来る前に俺がメシを用意して、晩御飯一緒にたべて、だらだらして、たまにエッチして、手をつないで寝る、なんて、そんな幸せを想像するだけで眠い目もこすって勉強をしようと思えた。
父さんと母さんには迷惑をかけるのだから、いい大学にいくことぐらいは俺の償いだ。だから、ちょっとぐらい無理したっていい、だから、ちょっとぐらい恋から離れて、ちゃんと夢にむかって努力をすることにした。
が、どうにもギクシャクしてたまらない。よそよそしく、なったとか、そういうんじゃないんだけど。
なんだか前よりずっと距離がある。
まるで、他人のようだった。
それが日々のストレスになっていた。毎晩、十分だけ、恋とベランダで会ってキスをして、バイバイして、もっと触りたい、もっとって思うのも我慢した。
俺には夢がある。
恋との未来がある。
そう、信じて。
夢というものはなんだろうか。
叶えたいものだろうか。
想像した自分の未来だろうか。
どれも、恋がいなければ成り立たない。
だから俺の夢は恋であり、恋の夢は俺の夢だ。…なんて、綺麗事。
本当は薄々気づいてはいた。
深まる溝の正体に、高くなる壁の仕組みに、気づいていたんだ。
俺は、恋がすきだ。
どんな姿も好きだ。
すきだ、すきだ、すきだ。
だけど恋はいつも俺を受け入れてばかりで、本当に俺を思ってくれているのかと不安になった。
恋の定義に当てはめてもしっくりこない。どうしても、恋の特別になれないことを知る。だから、俺は求めることをやめようとした。…できなかった。
俺をおいて教室を出て行く恋の姿なんて見たくない、見れない、いやだから。ねえ、誰とどこにいくの、俺の知らないところで何をするの、恐ろしいほど膨れ上がる憎悪、嫉妬、自分で自分に嫌気がさした。
止められ、なかった。
恋の首を掴むと。力を込めれば折れてしまうんじゃないか、というほどの、細さだった。あの日、初めて盛大に喧嘩した。俺は、おかしいのだろうか。
俺の思いは重く、想われるために想っていた。
ただ、確かに、恋をしていた。これは恋だった。
恋をしていた。
きっと、コイにコイをしていた。
バルコニーに出て行った恋の、白いリュックの手前のポケットからはみ出していた白いシート、それがプリクラだと気づいて、思わず引っ張り出して見てしまった。今日の思い出だろうか、楽しそうな、恋の顔。知らない男の人と写ってる。楽しそう、だなぁ。俺じゃ、こんな顔はさせてあげられない。そう想うと、ずどん、と心に、重みが加わって、なんだかもう、立ち上がれない。
いつも悩ませた。時々泣かせた。蕩ける顔もさせたことはあったけれど、それでも恋はいつも、俺のことだけを思っては苦しんでいた。
十分特別にしてもらっておいてなお、ワガママを言って傷つけた。
そんな彼の夢の邪魔を、している気分だった。
俺だけを見て欲しいといった。特別にして欲しいと言った。もう十分だったはずなのに、贅沢ばかり抜かすこの口が憎い、この心が恐ろしい。
俺は、お前の傍にいたかった。
守られていたかった。
揺るぎない、関係が欲しかった。
これは恋ではない。愛でもない。ただの執着で、恋の足を絡みとる。
俺が恋の傍にいる、それだけで恋の足はもつれて、転ぶ。傷だらけになっても、平気だと言って立ち上がる。その強さに憧れていた、甘えていた。
だから。俺は、お前に一生を賭けるよ、恋。
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