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「そのことなんだけどさ。昨日、一晩考えたんだよ」
伊藤のまっすぐな目を正面から受け止めて、健は身構える。目を覚ませといきなり殴ってくるかもしれないし、酷いことを言われる可能性もある。
「あの変な科学者みたいなのはめちゃくちゃ怪しいし、自分が未来を壊しているなんて認めたくはないけどさ。なんて言うか、しっくり来ちゃう自分が居たんだよ。昔から得体の知れない違和感みたいなのがあってさ。……だから信じるわ」
「……マジ?」
「マジ。昨日から今日にかけて一睡もしていないから、お陰で寝不足だよ」
伊藤はぐい~っと伸びをしながら大欠伸をした。――こいつ絶対自殺しないだろ。
俊太郎の意見を聞きたくて、俊太郎を見れば、俊太郎は伊藤を見ていた。じっと見た後に健の方を向き、小さくため息を吐いた。
「これは五十嵐に嵌められたかもな」
俊太郎の呟きに、伊藤が「え? あの科学者ってやっぱり詐欺師なの?」と言った。
「いや違う。今日、俺と健がここに来たのは、伊藤君が思い詰めて自殺してしまうと五十嵐が言ったからだ。でもそんな様子は全く見られない。おそらく五十嵐は嘘を吐いた」
俊太郎は「いったい何の為に?」と考え込んでしまった。
「は⁉ 俺が自殺?」
伊藤の驚き方からして自殺なんて一瞬も頭になかったのだろう。
「拓未はクラッシャーだし未来が変わったのかも」
健はそう仮説を立ててみるが、俊太郎は「昨日の五十嵐の猿芝居を臭いと思わなかったのか?」と言う。確かにあれはわざとらしかった。しかし、誠亞も正しいと言うから信じたのだ。まさか――。
「これは誠亞もグルだな。目的は不明だが二人に嵌められた」
俊太郎はまたため息を吐く。健は、嫌な予感がした。
「五十嵐に電話してみる?」
「そうしよう」
健はスマートフォンを取り出すと五十嵐のスマートフォン宛に発信する。ワンコールも待たずにすぐ繋がった。健は俊太郎にも聞こえるようにスピーカー設定にした。
『ナイスタイミングだよ、ケン』
通話に出たのは低い声の五十嵐だった。健と俊太郎に緊張が走る。
『そこにシュンも居るよね?』
「居る」
俊太郎が答える。健は「拓未も一緒に居る。……俺らに嘘を吐いた?」と聞く。五十嵐はハハッと笑った。
『ごめん。こうしないと安心出来なくてね』
しおらしい五十嵐に胸がざわつく。
五十嵐は淡々と話し始めたが、それは健を俊太郎を騙した理由ではなかった。
『二人共ありがとう。二人のお陰で僕は隠れたヒーローとして人生を終わらせることが出来る。願わくば来世でまた会おう。二人は嫌かもしれないけど、僕はまた次も――。次もまた四人でヒーローごっこでも出来たら良いなって思うよ』
不穏な内容に健と俊太郎は顔を見合わせる。五十嵐の話はこうしている間にも続いた。
『本当にありがとう。助かったよ。じゃあまたね。未来は君達に任せたよ』
それだけ言うと五十嵐は一方的に通話を切ってしまった。ツーツーという音を聞きながら健は放心した。この内容ではまるで――。考えたくはないがそれしか考えられなくて、心拍数はどんどん上昇していく。
五十嵐は計算によって未来の予定を割り出せる。つまりこうなることを五十嵐は知っていたのだ。そこで、髪が抜けてやつれた五十嵐と繋がる。――あれは死期を知ったからだったのか。
どうしよう。頭が真っ白になって動くことが出来ない。
「おい! お前ら、タクシー止めたぞ。早く乗れ!」
伊藤の声ではっと正気に戻る。声のした方を見れば、路肩に寄せてドアを開けているタクシーと、そこの脇で手招きをする伊藤が居た。こんな路地裏によく空車のタクシーが通りかかったものだ。
健は、未だ呆然と立ち尽くしている俊太郎の腕を引き、三人でタクシーに乗り込んだ。
そして、スマートフォンに控えてある――五十嵐邸の住所を運転手に見せる。
「ここに行ってください」
いつもみたいにズレた分だけ他で帳尻を合わせれば良いんじゃないのか。……違うのだろうか。
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