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Heart rate
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本当にもうダメだと思ったから。
だって、キスしていい?って言ったら庄司くん、すごく強張ったし。ぎゅっと閉じた短いまつ毛が震えるから。
やっぱこの人、人が怖いんだ、と確信した。
いつだって逃げたいんだと知った。俺から、人から、自分から。だから掴めないんだ、だから俺のものにならないんだ。そう、気がついてしまったから。
でも絶対、諦められないし、好きでいることをやめるのだけはできないから。一度だけ離してあげようと思ったんだ。
こんな拗らせた関係じゃ、進むものも進まないって。また一からあんただけを追いかけて、この先どんなに時間がかかっても、「誰かの代わり」になんかしないって。あんただけを見つめて生きたいって、心から思った。
「別れよ!」
だけど、明るい声とは裏腹に、俺の心はぐっちゃぐちゃで。目の前にいる存在が、すきで、すきで
すきですきですきですきで。
すきで。
この空間であんたとすごせること、ここにいるあんたを感じられること、笑う姿苦しむ姿、優しいあんたと、厳しいあんたと、弱くて小さくて強くて大きくて、誰よりも孤独で誰よりも悲しくて、誰よりも暖かいあんたの、何もかも全てたまらなく愛しくて、今すぐどうにかしたいぐらいで。
口から出た言葉が開放宣言なんて、無茶苦茶に苦しいけど、押してみた、引いてみた、諦めなきゃっておもった、離してあげなきゃ、迷惑かけないでいなきゃ、俺の気持ちだけは大事にするけど見せないようにしなきゃ、色々考えて、そうしようとしたけど、結局自分の欲が隠せなくなって。ダメだった。
庄司くんの全身から、「こわい」って聞こえたきがしてしまった。
誰よりも、怯えているのは。
この関係に怯えているのは、紛れもなく庄司くんだから。
いやだ、かなしい、ごめん、すき、あいしてる、あいしてほしい、すき、
全ての感情が混じって、そして別れが妥当だと思った。
なのに、その返事がまさかのノーで。
まさか、まさか、
「…古賀を好きにならんほうが、おかしい。これが答えじゃ、あかんかなぁ。」
なんて。
「俺が彼氏じゃ、あかんかなぁ?」
なんて!!!
想像してた答えと違ったことに驚いた。
二秒で「そうしよ!」って言われると思ってた。マイナス297点の俺と、恋人として生きることを庄司くんが選択してくれた。
一生かかってもたたないんじゃないかっていうフラグは、まさかのタイミングでたって、まさかの形で俺の望む二人になれた。
昨日の夜は、食べたものを片付けもせず抱きしめて眠った。腕の中に収まる庄司くんの小ささと、鼻先をくすぐる髪の柔らかさに幸せを感じながら眠りについた。
そして朝起きたら庄司くんが散らかした部屋を片付けてくれていて、朝ごはんがテーブルの上に用意されている。置き手紙に「ぱちんこ」と書いてあって、庄司くんの姿はないけど、彼らしいなと思うと笑みが零れた。
「おいし」
味噌汁に卵焼き、白米とあり合わせの炒め物。口に運ぶと少し濃い味付けがいつもより美味しくて幸せな気持ちになった。
俺は今日も休み。庄司くんはバイトが決まるまで無職。だけど今日という日を二人ラブラブいちゃいちゃデーにしないで何処かにふらっと行ってしまうのも庄司くんっぽい。せっかくだから昨日見に行けなかった服をふたりで見に行きたかったのにな。とか思いながら、スマホを取り出して「どこのパチンコ?」と送った。
既読はすぐについて、返信が面倒だったのか電話がかかって来た。
それを取ると、背後からジャラジャラとパチンコ屋独特のうるさい音が響く。
『駅前や。ぼろ負けやねんけど』
「じゃあ服買いに行こうよー!」
『あ?なに?服?ああ、あー………』
「そいえば朝ごはんありがとうね、おいしー」
『……………また今度!ほな!』
ぶつっ、と、一方的に電話を切られてしまった。…え?いやいや?なに?
「?」
意味不明な電話じゃなかった?いまの。
とりあえず食べ終えた食器を洗って、残してしまった炒め物は夜に頂くためにラップをして冷蔵庫へ。
髪をセットして服を着替えて鏡をみて、カバンに財布とスマホを入れて家を出る。
駅前って言ってたよね、パチ屋まで行けば無理やりにでも捕まえられるだろうと思って迎えに行くことにした。
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(うるっさ…)
パチ屋に入るとマジでやばいうるささに耳がやられそうになる。その中で庄司くんを見つけるためにうろうろとしていると、すぐに見つけた。小さいからすぐにみつかる。かわいーなー、頭に寝癖ついたままじゃん…。とか思いながら近づいて、庄司くん!と声をかける。けど、声が聞こえてないみたい。そりゃ、こんなに煩いと聞こえないか。
ぽんぽん、と肩をたたくと、こっちをみた三白眼が見開かれた。
「う、お、ぉおま、え??」
「デーーート!しよ!!」
「デ……、いや、くんなよ!!!昨日したやん、また今度言うたやん!!」
「え!?でも服買ってなくない!?しかも庄司くんぼろ負けなんでしょ!?」
「……あーーーもお、…」
庄司くんがガシガシと、頭を掻き毟る。
困ったような恥ずかしがってるような複雑な顔をして、席を立った。
「お前この後この台あほほど出たらしばくからな!」
「えへへ、やさし〜すき〜」
「死ねもう、死んでしまえ」
そんな悪態を吐きながらも、パチ屋から出てくれた。嬉しくなっちゃうじゃん、昨日のは本当に、夢じゃなかったんだ。
…夢じゃなかったんだなぁ。
「なにニヤついてんねんしばくでほんま」
「えーー?んーふふ、ほら、本当に庄司くん俺の庄司くんなんだなーって思うとさ!嬉しくて!」
「きんもー」
「あれ?なんか態度変わらなくない?もっとスキスキしてくんないの???」
「きも………」
「なんで本気のドン引きなの」
「どんどんびきびきどーーんびっき、どんどんびきびき ハッ」
「古くない?」
…………?あれ、昨日のは?夢じゃないよね?
なんか庄司くん、いつも通りすぎるっていうか?
あれ?浮かれてんの俺だけ?
嬉しいの俺だけ!?
「服買う金すってもーたからなー、なんか格安で見繕ってや」
「それぐらいプレゼントするけど…?ていうか、なんか、あれ…?」
「アホか自分で買うわ服ぐらい。そーいえばバイト決まったから心配せんでもえーよ」
「え!?????いつ決まったの!?!?」
「今日の朝面接やってん。さっきのパチ屋」
「嘘でしょ…………?面接のあと打ってたの?やばくない?」
「なんでやねん、今はまだ客やからえーやろ。」
「なんでそういうこと…言わないで決めちゃうんさ?パチ屋って庄司くん…そんな…小学生みたいな見た目で………」
「しばいて回して海に沈めたろか」
あれーーー?????ほんとに、この人……?
俺のこと、すきなの………?
…っていうか、なんか昨日より隣をあるく距離に距離があるような気がするんだけど?人ひとりぶん、空いてるような?
裏道で誰もいないから、ゆとり持って歩いてる、とか?いやいやいや、それこそ恋人なんだから誰もいないとこでくっつくべきじゃないの?
なんとなく庄司くんに少し近くと、庄司くんが少し離れていく。やっぱり気のせいじゃない、気のせいじゃなかったら庄司くん、さっき目があった時以来、俺のこと見てくれてなくない!?
「庄司くん!」
「なんや。…っ!?」
がしっと庄司くんの肩をつかんでこっちを向かせる。でも庄司くんと目は合わない。
なに?なんで!?俺なんかした!?
「迎えにきたのうざかった!?なんか、いつも通りっていうかいつもより遠い?っていうか!?」
「ちょまじおま、離せ」
「あっごめん痛い!?俺力強い!?だから離れてあるくの!?」
「や、ちゃうけど。……お前ちょっとうるさいな!!」
「逆ギレ!?」
目が合わないの、結構ツライんだけど。
庄司くんなんで俺の顔みてくれないの?
「こっち、みてよ…。」
庄司くんの両肩をつかんだまま項垂れる。
しばらくの沈黙のあと、舌打ちがきこえた。
「…………恥ずい」
ばっ、と顔を上げると、庄司くんの顔が、トマトみたいな色になっていた。
「なんか、全部恥ずいねん。そんなキラキラした目で俺を見んな、やめろ」
ピアスだらけの耳までも、真っ赤で。
俺の顔をみてくれない理由が、意外すぎて言葉がでない。
スタスタと先に歩いて行ってしまう庄司くんを慌てて追いかける。右腕を掴んで、こっちを向かせて、その瞳が困惑して視線が下に落ちた時、たまらなくなった。
「あんたズルすぎます」
なんなの、俺より浮かれてんのあんたの方だっていうの?
俺より今を意識してんのが、あんただっていうの!?
「なにが!?そらお前照れるやろ!?そのうち慣れるからほっとい「俺もう我慢しなくていいんだよね?」」
「あ?」
「ほんとに、俺の庄司くんなんだよね?」
手を繋ぐのも、キスも、ハグも、その先も。
もう遠慮しなくていいんだよね?
あんたがそんなに意識してくれるなら、俺だって全力ですきだって言っていいんだよね?
裏道でなにをしてるんだろう。
これから出かけようって、思ってたのに。
あんたがそんなんじゃ、俺だって余計に意識しちゃうに決まってんじゃん。
どきどきするのやめられないに決まってんじゃん。
むず痒くてたまらないよ、このあと同じ家にかえって普通に過ごすなんてむりだから。
「青春みたいなこというなや!!!そーやって、昨日も、いう…た、やんけ死ね!!!!」
「今日帰ったらキスするよ。いいの?」
「宣言!?」
「今でもいいけど」
「死んだら!?もう知らん俺はユニクロにいく」
「ちょっと!!はぐらかさないでよ!」
「うるさいうるさい!!!」
またもや俺の手を振りほどいて、庄司くんはすたすたと歩いていってしまう。それを慌てて追いかける。庄司くんの耳は赤いままで、距離をとってあるくのは変わらない。
まって、こんなどきどきしたまま、服なんか冷静に選べない。もしかして庄司くんもずっとどきどきしてたりすんの?
あーむりむり、今すぐキスしたい。
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