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ねえ、君は今何をしてる?僕の事なんかとっくに忘れて、何処かで笑っているのかな。
僕は今、誰もいない公園にいるよ。
圧倒的なアトラクションを思い出して、甘い筈なのに後味には苦みが残るキャラメルポップコーンを思い出して、滑り台の一番上に座っているよ。
あれから幾つかの恋をした。振られて泣いた日も、振ってせいせいした日もあった。
けれどあの日君と眺めた鮮やかな景色は、今でもしっかり覚えている。
──転勤を控え、いよいよ最後の荷物を纏めている最中の事だ。引き出しの奥から、一冊の古びた本を見つけた。
昨今文具屋に並ぶデザインとは少し違う、左側3分の1を占める大きなロゴが印象的な、時代を感じる大学ノート。
表紙を捲ると、そこには少年の心が記されていた。30代になった今では探しに行く元気もない、初めてデカいカブトムシに出会えた日のような壮大な心が。
同級生に想いを伝えてから手を放した日までのほんの2ヶ月にも満たない日記は、まっさらな数ページを残して所狭しと下手くそなポエムを連ねていた。
シャーペンひとつで描かれた思い出はこんなに眩しいのに、発注書に蛍光ラインを引いても、部下が作った企画書に赤で直しを入れても、最近は飽きるくらいに世界は灰色一色だ。
許す事が増えるにつれ許される事が減った僕は、あの頃じゃ当たり前すぎてココにも載せて貰えなかった澄んだ夜空を思い出せず、厚い雲と半分欠けた月を見上げる。
本に出て来てくれたのは、ジェットコースターの頂上から君と見つけた夕焼けのみだった。
明日、僕は生まれ育った故郷を離れる。君と過ごしたこの町に、膨れた鞄の隙間には到底おさまらない大量の思い出を置いて。
君はもう居ないけど、君がくれた数えきれないプレゼントの山を、僕は少しずつ無くしながら、ふとした瞬間部屋の隅で見つけながら、結局殆ど捨てられないまま鍵をかけて閉じ込めて、こうして今まで生きて来た。
これから最後の宝探しをしようと思う。大きな荷物で隠れているものも、きっとあるだろうから。
未完結の冒険譚が、頼りない半人前の月光に照らされ、ぱらり、ぱらりと開かれる。
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