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クラライアの目的は不透明だったが、戦時中に起こった事件に目を向けると彼女の思惑が見えてきた。
「ヴィーヴィーのためなどではない。あの女はこの戦争を利用して膿を出そうとしている」
ガリア、オリエント、ブリタニアにコナをかけたのも腐った王朝を破壊するためだ。彼らに不利益になる戦場を、そうと分からぬよう整えている。
クラライアにとて厄介だったのはブリタニア王がまともな人間だったことか。役人は腐敗しきっているが、王だけが正常なので巻き込むに巻き込みきれなかった。
冤罪を生み出しやすい体制。私生児を許容する体制。ロマを利用した工場惑星や研究所の始末。残虐なマフィアの一掃。
皇帝という地位にあってはやりたくても出来ない、手出しの難しいかゆい場所をやりたい放題に片付けている。
おそらくは、前皇帝も共犯だ。娘と結託して宇宙を浄化するために彼は自身の死すら利用した。
そしてクラライアも殉じるのだろう。道を誤り大戦争を引き起こしたS級戦犯として。
シヴァロマにはやりたくても出来なかったことだ。そうだ、そうすればよかった。己の頭の固さが悔やまれる。
そうしてやりたかったのだ、本当は。
姉はきっと、それを望まないだろうが。
***
思えば、ハイドに誘拐された時にクラライア皇女に助けられたんだっけ。あのときは彼女の姿が本当に頼もしくて、凛々しく移しく、こんな形で再会するなんて思いも寄らなかった。
彼女と王女は伴もつけず、丸腰でやってきた。まあ全身凶器みたいな人だから武器がないってのはマイナスにならないんだけども。
「久しぶりね、クロネ。ずいぶん男前になったじゃない。一人前の男の顔だわ」
そんなこと言われると嬉しくなっちゃうけど。
でも、この戦争を引き起こして蛍も誘拐されあの状態。俺だって脳に障害出来るほど深手を負った。警戒するのは当然だろ。
「とりあえずお茶にしましょ。そちらで出してくれたものは何でも食べるわ。じつは、最近食事もろくにとってなかったのよ」
敵船でまるで友人宅に遊びにきたようなこの態度……舐められてるんだろうか。
お腹が空いてるというので食事を用意してもらったら、質素な合成食であるにもかかわらず、二人ともぺろりとたいらげた。ほんとに食べる暇もなかったのか。
「さて、エヴデルタの件はもう知ってるわね」
「……全部超AIのせいなんですか。貴方もその駒に過ぎなかったと」
「いいえ、エヴデルタと共犯でした。だからこの戦争が終われば私とヴィーヴィーは命を絶ちます。その覚悟があって始めたことよ」
ああ。
この緊張感のない違和感。なめてるんじゃない、覚悟してる人の態度なんだ。
実は、シヴァロマ皇子から多少聞いていた。クラライアは皇帝になって、戦争に乗じて宇宙の黒い場所を潰して回ってると。
主に各国家が行っている悪事。今まで自治権などの問題で手出し出来なかったことに着手した。そのための、戦争かもしれないと。
「あなたが無事でよかったわ。私もあなたのファンの一人なのよ。暗殺未遂のことはブリタニア内部で起こったこと……といってもブリタニア王じゃないわよ。あの王も苦労してるの、わかるでしょ。ばかな部下を持つと……」
ブリタニアは王だけがまともで、あとはクズと聞いたことはある。そうか、そういうオチか……ブリタニアの動きが不穏だったのは。クヴァドくんを疑ったりして悪かったなあ。ちなみにクレオディスもけっこう疑ってた。
俺も気をつけなきゃな、なにしろ部下の大半が元海賊だ。きっとやりすぎたり、ずる賢く横領したりするに違いない。
「戦争はね、実はもう少し続けたいの。ふりでいいから。協力してくれる? そうすれば菊蛍の命は助けるわよ」
「まるで蛍が負けるような言い方」
「このままじゃ負けるわよ。使い捨ての囚人兵をいくらでも送り込めるのだから」
それはきっついな! エヴデルタの件がなくてもきつい。
「……俺は捕虜だから決定権はない。ヒッケーさんが決めて」
「こちらとしては願ってもない申し出です」
「交渉成立ね。それじゃ、お邪魔さま」
これが彼女たちを見る最後の姿になると思う。
俺はなんとも言えない気持ちで見送った。
しばらくして惑星内は停戦して、蛍が帰ってきた。
「何が何やら……怒涛の戦闘であった。囚人兵時代を思い出したぞ」
「蛍!」
汚れた蛍に抱きついた。うわ、さすがの蛍もこれだけ長丁場の戦闘帰りは臭い! 気にはならないけど、臭い蛍って新鮮だ……嫌いじゃないにおい。
「これ、汚れる。まずは洗浄ポッドに入れさせてくれ。こんな状態でお前を抱きたくはない」
その「抱く」って抱きしめるって意味だよな? そうだと言ってくれ。
『蛍。ポッドに入りながらでいいから聞いてくれ。このままじゃ戦争が終わらない。エヴデルタが絡んでる。俺は今からエヴデルタに会いに行く』
『勝算はあるのか』
『こっちにも超AIがついた。だからここでお別れだ。俺が本当に欲しければ奪りに来い』
『……そうか』
蛍はどこか寂しそうだった。このままなし崩しに俺を手に入れたかったのかもしれない。でもそうしたらあんた、収まらないだろ!
『ハイド、行くぞ』
蛍のデータリンクシステムを使って体ごとブリンク。今回は超AIがついてるから非常に楽だった。
どこでもない狭間で「エヴデルタ」と個体名を呼ぶ。
会ったことのないAIだが、それはすぐに現れた。
『困った子ですね、あなたは。こんなところまで来てしまって。優秀すぎるのも考えものです』
どっかで聞いたような台詞を吐く。
エヴデルタは超AIとしては旧式の部類に入る。他は自己複製を繰り返しながら成長していくが、エヴデルタは人の世に残ると決めてから自己複製していない。何千年か前のそのままのプログラムなんだ。
それでも未だに人類は彼の技術に追いついてはいない。一説によればマイクロチップやマネーシステムを生み出したのも彼なのだとか。
『ひとつ訂正させてください。貴方は菊蛍の玩具のために生み出されたのではありません。実行はオートンの手に委ねましたが、そうするよう指示し知恵を授けたのは私です』
『俺の誕生にまで関わってんのか……!』
『正確には貴方と菊蛍の誕生に。貴方のような存在を造るために何人か同じものを生み出したように、菊蛍にもそうした存在がいます。過酷な条件だったので何十人か消費しましたが』
いま俺に肉体はないが、背筋が粟立つ思いだった。蛍みたいな思いをしたやつがほかにも? 蛍が苦しんだのはこいつのせいだってのか。
『菊蛍は最初のロマの王としてよくやりました。でも、もうそれも終わり。彼は役目から解放されるべきであり、貴方が継ぐべき時です。
そう、初代ロマの王となる菊蛍に気に入られるように造られた貴方こそが、私の望んだ本当のロマの王なのです』
無機質―――そりゃ機械なんだから当然だが、フッセやコリドンとは違う味気のないエヴデルタの淡々とした言い草に俺はハイドに寄り添った。
『そのために、オートンに菊蛍を拉致させたのですが、まさか来てしまうとはね』
『オートンは……』
『私の手足です。なぜか菊蛍に執着し、余計なプログラムを実行しましたが。まだ計画は狂っていません。あなたは予定どおり、ロマの王です』
『俺はこれから蛍と戦うが、それは蛍を迎え入れるためで、蛍はまだ俺たちの王だ!』
『私には彼が貴方に相応しいように思えません』
えっなにそれこわい。俺が蛍に相応しいんじゃないならとにかく。蛍が俺に相応しくない? 何言ってんだこいつ。
『過去、二度に渡り貴方を調教したあの男。あの男があの時なにを考えていたか、どんな顔をしていたか覚えていないでしょう。貴方は壊れないよう逃げるのが得意な子ですからね。いま、その記憶を思い出させてあげましょう』
えっ、と思う暇もない。
視界がいつか見た天井画のある地下座敷に移った。それと蛍の顔も。
無表情の蛍。俺の足を担いで、機械的にイボ団子を弄る蛍。あの時の俺はすでに半分意識がない状態で、啼かされるばかりだったけど、今は追体験しているせいか確り覚醒していた。
「う! うあぁ……ひぅ、あうぅあぁ!」
角度をつけながら最悪に悦い場所を緩急つけて抉る蛍。まるで観察するように俺を見ていて、怖い。このときの蛍、こんな顔してたんだ。
「も、むり、あ…むりむりむりもういきたくな……ひぃうううう!!」
イクって時にぐんっとイボ団子の先端で結腸のあたりを開くように突き上げる。ガックンと跳ね上がる俺の体。
「かはっ、かは……あぐ……ぐ」
呼吸もうまく出来ずに苦しむ俺のことも、蛍は冷めた目で見ていた。そうして余韻もそこそこにすぐイボ団子を弄りはじめる。
「あがっ! あぐっ……ぅう、うう……」
激しい刺激だけじゃなく、振動を緩めて焦らしたりしながら蛍は巧みに俺を追い詰めていく。やがて熱を持て余してハアハア息を漏らすようになると、再び激しく攻め立てる。
もうやめてくれ。思い出したくない、あのときのことも、あのときの感触も!
「……あう。あうぅ。んー」
やがて俺があーとかうーとかしか言わないようになると、蛍はやっと微笑んだ。
『わかりましたか? 菊蛍は貴方を壊すつもりで犯したのですよ。お仕置きと口では、いえ自分に言い聞かせながらね。ままならない貴方に腹を立て……嘗て自分がされたことを貴方に返したのです。
尤も、幼児返りしたのは貴方のほうだけですが、これも殊の外気に入ったようですね』
蛍は自分で産んだ赤ん坊みたいに俺を丁寧に、いとおしげに扱った。抱いて移動し、人差し指をしゃぶる俺を膝に抱いてあやし、幸せそうに抱えて眠る。
たぶん、このまま戻らなかったとしても、蛍は良かったんだろう。
蛍は、俺が思っていた以上に壊れていた。
『代理ミュンヒハウゼン症候群の傾向があります。彼はまた同じことを繰り返しますよ。それでも彼を受け入れるのですか』
べつに。
今度は自衛くらいする。それより、蛍がこんなふうになってたと気づいてやれなかった自分に腹が立つ。
俺は好きな奴にされたことだけど、蛍は大嫌いな父親にされたんだろうな。苦しかったろうな、辛かったろうな。
蛍と同じ思いした奴が何十人。蛍が何十人も同じように苦しめられた。
こいつのせいで。
『ハイド、分かってるな』
『わかってんよ』
ハイドは旧式のエヴデルタとは違う。進化し続けた超AIたちから最新の状態でアップグレートされた。
『なぜ。私は人類のために尽くしてきました。ロマたちの不遇をたすけ、あなたたちの頭を悩ませていた宇宙の膿を出すことに尽力しました。私をデリートするのですか。今、戦争が終わればそれも出しきれずに終わります』
んなこたぁどうでもいいんだ。
あんたは戦犯だ。どんなお題目掲げようが、それは変わらない。クラライアはそれを覚悟していた。ならあんたも覚悟をしなけりゃならない。
『おつかれさま、エヴデルタ。みんなあんたに感謝していたよ』
ハイドの手によって、エヴデルタはあっさりと終了した。
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