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第8話
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カナダ同様、大悟は藤原と学校生活を共にすることになったが、Kが自分を学校まで送迎することは変わりなかった。藤原も一緒にと誘ったが、ラブラブ邪魔したないと言い張って、彼は電車通学している。こうなると、自分だけがKに送り迎えしてもらってることが嫌になり、藤原と一緒に電車通学したいと訴えたのだが……
『立場をわきまえろ。おまえはハナムラの人間で、ボスの命令で高校に通っているだけだぞ』
Kから連絡を受けたらしいレイにぴしゃりと言い放たれ、何も言えなくなった。ハニーと一緒で嬉しいとKは言ってくれるが、大悟の気持ちは複雑だった。
「あ、宿題のプリント、忘れた。取ってくるな」
その日も授業を終えて帰るべく靴を履き替えていると、藤原が忘れ物に気づいた。
「なら、先に出てる」
「いや、ここで待ってて。すぐ戻るから!」
通学は別なのに、校内は大悟にぴったりくっついている藤原。トイレにまでついてきたりするため(勿論外で待機)時々息苦しさを感じてしまう。
Kも藤原も、俺の心配ばかりなんだよなぁ。
「珍しいな、花村ひとり?」
そこに前の席の鳥居がやってきた。
「うん、まあ」
待っているとは言いづらくて、大悟は言葉を濁した。
「そろそろ受け入れてやれば、藤原の愛ってやつを」
鳥居は靴を履き替えながら、大悟に言った。
「だから、そういうのじゃないって」
「まあ、愛を通り越して、執着に見えなくもないけどな」
鳥居はそう言うと、腕組みをしてうんうんと頷いた。
「違うよ、藤原のスキンシップが過剰なのは、昔からなんだって!?」
「それならさ」
大悟の主張を受け流し、鳥居は顔を近づけてきた。あまり近づかれると傷痕の細工がばれてしまうし、K以外の人間と近くで接することがほとんどなかったため、咄嗟に顔を背けた。
「ふーん、やっぱりそうか」
鳥居は独り言のように呟いた後、大悟の手を取り、歩き出した。
「え、ちょっと!?」
「今日は藤原いないんだろ。一緒に帰ろうぜ」
「いや、それは……」
学校を出ればKが待っている。殺し屋だからということもあるが、Kを人目に晒したくなかったので、学校の前ではなく少し離れた場所で待機してもらっている。
「知ってる。毎日ハナムラグループの人間に送り迎えしてもらってんだろ」
どうしてそのことを知っているのか。訊ねる隙も与えられず、大悟は鳥居に手を引っ張られながら学校を出た。しかも、Kとの待ち合わせとは反対方向に歩いていく。手を振り解こうとしても、どういうわけか出来ない。
「おい、離せよ!?」
「もうちょっと我慢して」
鳥居は右手で大悟の手を、左手でスマートフォンをいじりながら、前へ前へと進んでいく。
そうこうするうちに、一台の乗用車が鳥居の側にやってきた。そこでようやく歩みが止まった。
「すごいすごい、本当に連れてきたよ」
運転席から男が降りてきて、鳥居の頭をよしよしと撫でる。子供扱いするなと言って、鳥居は不服を訴えたが、嫌がっているようには見えなかった。
「花村大悟君、いや江藤大悟だね」
やがて、男の視線が大悟に向かった。
「会えて嬉しいよ。何度面会を申し込んでも断られて困ってたんだ」
中肉中背のこれといった特徴のない外見だが、言い知れぬ恐怖を感じた。
「そんなに脅えないで。君をどうこうしようなんて思ってないからさ」
男は大悟と同じ目線になるように体をかがめ、名刺を差し出した。大手の新聞社名と鳥居圭介という名前が記されていた。
「勝馬の兄だよ。仲良くしてくれてありがとう」
鳥居が自分に声をかけたのは、江藤大悟だとわかっていたから。さっき顔を近づけてきたのは、右頬の傷を隠していることに気がついたからだ。
早く逃げなきゃ、Kとレイに連絡しなきゃ!?
わかっているのに体が動かない。大悟の全身は氷のように冷たくなっていた。
「俺はね、君をカナダに軟禁するよう命令した元文部大臣日向匡の死の真相を探ってるんだ」
ようやくわかった。Kが学校まで送り迎えすること、藤原が学校で自分の側から離れなかったこと、レイが会社が来るなと言ったのは、マスコミが嗅ぎ回っていることを知っていたからだったのだ。
「当日まで勢力的に公務をこなしていたし、上にのし上がるための根回しも行っていた。こういう言い方はどうかと思うけど、罪を悔いて自ら死を選ぶような人間じゃないと周囲は首を傾げていてね」
「知らない、何も知らない!」
「疑問はまだある。君がなぜハナムラグループに引き取られたのかだ。花村社長に訊ねても、プライバシーに関わるからといって聞いてもらえなくてね」
これ以上聞きたくないと、大悟は両手で耳を塞いだ。途端に息が出来なくなった。吸っても吸っても息苦しい。大悟ひとりが水の中にいるかのように。
「おい、花村!?」
大悟の異変に気づいて、鳥居が手を伸ばしてきた、そのときだった。
「遅くなってごめん」
背後からふわりと抱きしめられ、耳元で優しい言葉をかけられる。
「もう大丈夫だよ、ハニー」
冷たい水の中から大悟を引き上げてくれたのはKだった。ごめんなさいという言葉を放つことも出来ず、大悟の意識はぷつりと途切れた。
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