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第9話
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これで何度目だろうか、真っ青な顔で恐怖に震える大悟の姿を見るのは。
今日も学校終わりの大悟と合流すべく、シラサカは車で待機していた。
カズミと学校に通うようになってから、大悟は変わった。それまで学校のことを一切口にしなかったのに、シラサカが聞くまでもなく話してくれるようになった。話題のほとんど全てにカズミが関わっているのはどうかと思うが、目を輝かせながら今日の出来事を話す大悟を見るのは悪くない。
実は、花村が大悟を学校に行かせる選択をしたのは、カナダからの出入国の記録だけではなかった。軟禁生活が常だった大悟は平穏を知らない。今はシラサカが側にいるからいいが、この先離れることが出てきたときのため、今のうちに心の傷を癒やせばいいという配慮からだった。
マスコミが事件のことを嗅ぎ回っていることがわかったため、カズミとミカを呼び寄せて事情を話し、大悟をそれとなく校内でガードしてもらうようにお願いした。学校から家までの送り迎えはシラサカが担当することでうまくいっていたのに、カズミと離れた隙をつかれ、大悟は鳥居というクラスメイトによって校外に連れ出された。大悟から前の席だという話は聞いていたが、まさか兄が大手新聞社の記者で、大悟にコンタクトを取ろうとしている相手だとは思わなかった。
シラサカは大悟を自宅に連れ帰ると、すぐに医師の松田を呼んだ。同時にレイに事の次第を打ち明けた。松田と共にやってきたレイは、大悟を見て失望と取れる大きな溜息をついた。
「おまえがついていながら、この有り様かよ」
レイに責められても、シラサカは何一つ言い返せなかった。大悟のことだけではなく、とんでもないことをしてしまっていたから。
「同級生の兄の記者を殴り、それを不特定多数に見られた」
大悟が真っ青な顔でシラサカの腕の中に落ちた瞬間、怒りで我を忘れた。何も聞かず目の前の男を殴りつけた。カズミが止めにやってこなければ、どうなっていたかわからない。
「ケイちゃんのせいやない。俺が目離したから、俺が悪かったんや」
一緒に帰ってきたカズミが割って入ろうとしたが……
「部外者は口を出すな」
レイは冷たく言い放つだけだった。彼が言うように、ここでカズミに慰められでもしたら、惨めになってしまうだけだった。
「シラサカ、これはおまえが撒いた種だ。おまえがけじめをつけろ。これからボスに会って経緯を報告してくる」
レイはそう言い放ち、踵を返した。玄関の扉が閉まると同時に、シラサカは長く大きな息を吐き出した。
「あいつ、ケイちゃんより下やのに、なんであんな上からなんや!?」
カズミはレイの態度が気に食わないようである。
「レイの言うことは間違っていない。むしろ、はっきり言ってくれてよかったよ」
レイは事実を述べ、シラサカにけじめをつけろと言ったが、記者を殴ったことを責めはしなかったから。
「そうそう、過ぎたことをくよくよ悩んでも、仕方ないからね」
カズミから連絡を受けたミカは、キッチンで食事を作ってくれていた。メニューは言わずと知れたハンバーグである。いつでも食べられるようにと、弁当箱に詰めてシラサカに渡す。
「こういうときはしっかり食べて、たっぷり寝ること。お味噌汁とポテトサラダも作ってあるからね」
ミカの優しさが心に染みた。シラサカは礼を言って、カズミと共に部屋に戻ってもらった。
カズミとミカが辞してまもなく、松田が寝室から出てきた。最初に診てもらった後、ふたりで何度か彼の診療所に行ったこともあり、処置が終わるまで大悟についていてもらったのだ。
「点滴終わったぞ。ハチミツ少年、途中で起きたぞ。少し話をしたが、俺より兄ちゃんがついてた方がいいだろう」
ちなみに松田の言うハチミツ少年とは、大悟のことである。
「そう、ですか……」
正直に言えば、シラサカは大悟と顔を合わせるのが怖かった。
「一応言っておくがな、今夜は無理させるなよ」
松田はシラサカと大悟の関係を知っている。だからこそ釘を刺したのだろうが、さすがにそんな気にはなれなかった。
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