アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第10話
-
目を開けて、最初に視界に飛び込んできたのがKじゃなかった。
「起きたか、ハチミツ少年」
大悟をハチミツ少年と呼ぶのは、医師の松田である。花村とは友人という縁もあって、組織の主治医的な立場にあるらしい。ちなみに、彼の診療所は人里離れた山奥の一軒家である。
「先生、Kは?」
「殺し屋の兄ちゃんならピンピンしてるぞ。込み入った話があるとかで、おまえを見ててくれと頼まれた」
松田の言葉で忘れていた現実を思い出した。
「そうだ、Kとレイに話さなきゃ……っ!?」
突然起き上がったせいで、大悟は酷いめまいに襲われた。そのときになって、右腕に点滴の針が刺さっていることに気づいた。
「まだ起きるな。処置中だぞ」
「でも、俺のせいで皆が!?」
鳥居の兄の圭介は、日向の死に疑問を抱いており、大悟が花村に引き取られたことも不審に思っていた。自分のせいで組織のことが明るみになれば、取り返しがつかなくなってしまう。
「いいから落ち着け。これぐらいのことで、あいつらがどうにかなるわけないだろ」
さも当然と言わんばかりに、松田は言った。
「でも!?」
そんなことよりと言って、松田は大悟の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ハチミツ少年が今やることは、これ以上倒れたりしないことだ」
松田の言う通りだった。Kに抱きしめられて、彼の腕の中で意識を失った。直前に聞いたKの声はとても辛そうだった。
ごめんなさいと言って、大悟はベッドに寝そべった。またKに迷惑をかけてしまった。不甲斐ない自分が嫌になって、涙が出そうになったが、必死に堪えた。
「我慢しなくていい、泣きたかったら泣いていいんだぞ」
松田はそう言ってくれたが、大悟は首を横に振った。
点滴が終わると松田は部屋を出た。ひとりになって、大悟は不安になった。
松田が言っていた込み入った話とはなんだろう。鳥居の兄である新聞記者の圭介はどこまでつかんでいるのか。悪い想像ばかりが浮かんできて、大悟は起き上がって、頭を抱えた。
俺のせいで、Kが捕まったらどうしよう。
「大丈夫。何があっても、ハニーのことは俺が護るからね」
Kの声が聞こえたと思った瞬間、彼の体温を感じた。途端に堪えていたものが決壊した。
「ごめん、ごめん、なさい!?」
「なんで謝るの? 何も悪くないよ、ハニーは」
Kに抱きしめられ、背中を優しく撫でられて大悟は泣いた。
「昔のことを思い出して、怖くなったんでしょ?」
「そうじゃない」
大悟は涙を拭いて、Kをまっすぐ見やる。
「俺のせいで、皆やKが捕まるのが怖かった」
目の前で日向の死を見届けた。両親の墓にも行った。あれでけじめがついた。どちらのときもKが側にいて、自分はひとりじゃないと思えたから。
「え、そこ? ハニーが怖がってたの、そこだったの?」
大悟の返答が意外だったらしく、Kはぽかんと口を開け放っている。
「鳥居のお兄さん、新聞記者で、日向の自殺やボスと俺の関係が怪しいって言ってたから」
至って真面目に答えたというのに、Kは笑った。
「そっか、そういうことだったのか。それならよかった。あの記者のこと殴ったから、ぶっちゃけ面倒なことにはなってんだけど」
Kの言葉に大悟は目を丸くした。
「殴ったって、全然大丈夫じゃ──ッ!?」
大悟の反論は、Kの唇によって塞がれた。そのまま彼の舌が口内へと侵入する。大事な話をしてる最中だったが、大悟も舌を絡め、Kを求めた。そのままベッドに押し倒され、より深く繋がっていく。どれぐらいそうしていたのか、唇が離れ、透明の糸が途切れた瞬間、Kは微笑みながら大悟を見下ろし、こう言い放った。
「覚えておいて、ハニー。俺は絶対捕まらないから」
目の前のKは自信たっぷりだった。
「俺だけじゃなく、組織の連中のこともだよ。そんなことは心配しなくていいからね」
Kは嬉しそうに笑いながら、大悟の髪を撫でた。
「わかった。わかったけど……」
返事に満足したらしいKは、おでこにチュッとキスをして、起き上がった。
「ミカちゃんがご飯作ってくれてるけど、どうする?」
点滴もしたし、泣いたせいで気分は上向いていた。大悟はこくりと頷き、Kと共に部屋を出たのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
11 / 80