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第16話
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「ただいま、ハニー」
チュッという音を皮切りに、Kからキスの雨が降り注ぐ。額、両瞼、両頬、そして唇。口内をこじ開けて侵入し、舌を絡め合わせ、目覚めへと導いていく。愛しい人の唾液が注がれ、それをごくりと飲み込んで、大悟は目を開け放つ。
「……おかえり、K」
薄いラフなジャケットにジーンズ姿、青色の瞳を隠すための薄いブルーの色付きサングラス。いつ見ても惚れ惚れする程カッコいい。
「体どう?」
「うん、大丈夫……じゃないよ!?」
お昼も食べずに夕方までKに抱かれていたのだ。しばらく学校を休むことになったとはいえ、もう少し考えてほしい。
「そっか、そっか。じゃあ、俺が抱えてあげるね」
途中から記憶がないが、大悟はKのシャツ一枚きりの姿で寝ていた。彼に赤子のように抱えられると、自然に両手を首に回してしまう。そのままベッドルームの扉が開け放たれる。
「うわ、めっちゃ生々しいやん」
耳に飛び込んできた関西弁で、完全に目が覚めた。振り返れば、制服を着た藤原とミカがダイニングテーブルにいたから。
「ふ、藤原!?」
お盛んなことで、といって彼は肩をすくめる。途端に大悟は恥ずかしくなった。
「K、降ろして!?」
「なんで? 歩けないでしょ?」
「いや、だって、こんな格好だし!?」
大悟はKのシャツ一枚きりの姿である。網にかかった魚のようにジタバタと暴れても、Kは大悟を離そうとしない。
「あらあら、本当に仲良しさんねえ~」
藤原の隣でミカは朗らかに笑った。大悟を藤原の前席の椅子に座らせて、隣にKが座る。
「ラブラブ邪魔して申し訳ないけど、色々報告しとかなアカンから始めるで」
そう言って、藤原は話を切り出した。
「今朝のホームルームで、大悟は家庭の事情でしばらく休むゆう話になっとった。ちなみに鳥居は学校を休んどった。体調不良ゆう話やったで」
「このタイミングで体調不良ねえ」
Kは鳥居が気に入らないらしく、言葉の端々が刺々しかった。
「俺もそこが気になってな、それとなーく周囲に聞いてみたんや。そしたらな、こういうこと、前にもあったらしいねん」
大悟と違い、藤原は既にクラスに馴染んでいるようである。
「鳥居は何か病気を抱えてるってこと?」
「そういうわけやなさそうやねん。もしかするとな、あいつも俺らと一緒なんかもしれん」
「それって、まさか!?」
思わず前のめりになる大悟。
「虐待なんて、そんなあちこちであるものなのか?」
大悟が思い浮かんだ言葉を、Kが口にした。
「それにしてはあいつ普通やったし、そういう話と違うかもしれんけど、同じにおいがすんねんな」
藤原は厳しい表情を崩さず、Kに視線を向けた。
「ケイちゃんには朝話したやろ。鳥居兄弟は血が繋がってない。それにしては仲良しやって」
「だとすると、あの二人は関係を持っていて、弟は兄に逆らえないってことか」
「俺らみたいに無理矢理やなく、時間かけて鎖を繋いでいったら、気づかんでそうなってる可能性もある。まあ証拠はどこにもないし、俺の考えすぎかもしれんから、本人にそれとなく聞いてみるしかないな」
藤原は断定しなかったけれど、大悟の虐待を見抜いていたことからして、間違っていない気がした。
「藤原、危ないことはしないでよ」
「勿論や。俺からはそんだけ。次はミカちゃんな」
藤原の話が終わると、ミカにバトンタッチする。
「そうだよ、K、ミカちゃんさんが重要な手掛かりをくれたんだよ!?」
帰ってきたKに報告しようとしたのに、流されて何も言えなかったのである。
「そういえば、そんなこと言ってたっけ?」
「言ったよ、言ったのに、Kが俺の話を聞いてくれなくて!?」
「だって、昨日から我慢の限界だったんだもーん」
大悟がいくら文句を言ってもKは動じない。それはミカも同じで「ええのよ、仲良し邪魔してるのはこっちの方やから」などと言って笑うだけである。
「レイが送ってくれた資料の中にあった鳥居圭介の上司である瀬野京平を、ミカちゃんさんは知ってたんだ」
「へー、偶然だね」
大悟はまだ気づいていないが、こういった作業はレイの担当である。彼は経緯を一切話さず結果しか述べない。話したところで、シラサカが興味を示さないことをよくわかっているのである。
「もう、ちゃんと聞いてよ、K!?」
興味なさげなのは通常運転なのだが、それを知らない大悟はイライラを募らせていく。
「はいはい。で、その瀬野って奴とミカちゃんはどういう知り合い?」
「銀座でクラブのホステスしてたときに会うてたの。そのときは、新聞社の新人記者やったわ。現役のママから聞いた話やけど、今も政財界に深いパイプがあるらしいで」
政財界と聞いて真っ先に浮かんだのは、両親の事件を隠蔽し、大悟をカナダへ軟禁した元文部大臣の日向匡のことである。
「なるほど。この瀬野って奴が日向の死に疑問を抱いて、記者を使って探りを入れてきたってことか」
腕組みをして目を閉じ、Kはうんうんと頷いた。しばらくして目を見開いたときには、表情が一変していた。
「そういうことなら、ボスに報告するしかないな」
大悟をハニーと呼んで優しく笑うKじゃない。ハナムラの殺し屋のKに変わっていた。
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