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第24話
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壁に繋がれた頑丈な鎖の先にあるのは、鳥居勝馬の両手。目隠しをされ、両足は自由だが裸足で、服は着ていなかったが、事前にレイが上着をかけてくれていた。
「鳥居、鳥居、大丈夫!?」
大悟はすぐさま駆け寄った。床に倒れた彼を起こして、何度か声をかければ、体がぴくりと動いた。
「待ってて、今助けるから!?」
自分がいることを示すため、大悟は目隠しを外そうとしたが、レイが割って入り、首を横に振った。ここで外せば、彼の存在が明らかになってしまうからだろう。
「……その、声、花村、だな?」
「そうだよ。事情があって、まだ目隠しは外せないんだ、ごめん」
「大悟だけとちゃうで、俺も一緒や」
藤原が側にやってきた。心配になって顔を覗き見たが、彼は平静だった。
「ごめん、藤原……」
「俺はおまえに何もされてへん。謝るなら、俺やなく大悟やろ」
藤原が鳥居と話している間、レイは針金のようなものを使って、両手の拘束を外してくれた。
「ごめん、花村、謝ってすむことじゃないけど、ごめん……!?」
勝馬は体を震わせ、涙を流した。その姿に大悟の胸は締め付けられた。
「俺も鳥居に何かされたわけじゃない。だから謝らなくていいよ」
大悟は、震える鳥居の体をそっと抱きしめる。
「離れて、俺、汚れてるから……」
直接体に触れたこともあってか、鳥居の全身が硬直した。大悟を拒絶するように振り解く。
「気にしないから。それに、鳥居が悪いわけじゃないでしょ」
「違う、俺が、俺が悪いんだ、俺が、圭介を、好きになったから!?」
鳥居は兄の圭介に好意を抱いたことが始まりだと告げた。まさかの展開に、大悟は藤原と顔を見合わせた。
「だから、圭介は悪くない! 圭介は何も悪くないんだ!?」
「発端がおまえの感情によるものやとしても」
藤原は、鳥居の左手を両手で強く握りしめて言った。
「こうなったんは、おまえのせいとちゃう」
「違う、違うんだ、圭介をあんな風にしたのは、俺なんだよ!?」
「気持ちはわかるけど、やっぱり違うと思うよ」
藤原に習って、大悟も両手で鳥居の右手を握りしめる。
「鳥居はお兄さんのことが好きだから、何されてもいいって思ってるのかもだけど、これは愛情なんかじゃない。虐待だよ」
最初からこうだったのか、途中から変わったのかはわからない。確かなことがあるとすれば、こんなに傷つけるような抱き方をするのは、違うということだけ。
「違う、圭介は、何も、何も悪くないんだよ……!?」
鳥居は泣き崩れた。両手の鎖が外れても、彼は圭介という名の鎖に繋がれたままなのだ。
『……バカだな、いい加減、気づけよ』
そのとき、通信機から声が聞こえてきた。すかさずレイが予備の通信機を差し出した。受け取って、大悟は鳥居の右耳に装着した。
『おまえのことなんか、なんとも思っちゃいねえ。おまえは俺の玩具だからな』
通信機から聞こえてきたのは圭介の声だった。鳥居は顔を上げ、目隠しのまま、周りを見渡した。
「圭介、どこだ、どこにいる?」
『地獄の入口かな。少なくとも、おまえの側じゃない』
「なんでだよ、なんでも言うこと聞くって言ったろ!?」
圭介の声に反応し、鳥居は自分達の手を振り解いた。立ち上がろうとする彼をふたりで制する。
『おまえを自由にしてやる。だから、今までのこと、全部忘れろ、忘れて……やり直せ、勝馬』
圭介が放った最後の言葉は、とても優しく聞こえた。
『これで最低の兄貴から逃れられるぞ、よかったな』
「なんだ、それ、これで終わりみたいな言い方すんなよ!?」
『江藤大悟君、ひとつ聞きたい。どんな立場であったとしても、君は勝馬の友達でいてくれるのかな?』
圭介は鳥居の言葉に反応せず、大悟に問いかけてきた。先日大悟に接してきたときと違い、血の通った温かい言葉だった。
「うん、鳥居は友達だから」
自分はハナムラの情報屋のカナリアで、今は江藤大悟という高校生を演じている。だからこそ、普通の高校生の間は友達でいたい。
『だったら約束してくれ。勝馬を巻き込まないと、俺の後を追わせないと』
圭介はおそらくKと一緒にいる。彼の言葉からして、命の刻限はあとわずかなのだろう。
「わかった、約束する」
「何言ってんだ、おい、圭介!?」
暴れる鳥居の耳から、レイが通信機を引き抜く。そして、自分達がやってきた方向を指で示した。そこには懐かしい人物の姿があった。
「久しぶり、大悟君」
以前、大悟を救うために奔走し、大怪我をした警視庁の刑事桜井直人だった。後のことは彼に任せるようで、レイは無言でこの場を去った。
「大丈夫なの?」
直人は松葉杖をついていた。彼の右足は元には戻らないという話だった。
「リハビリの一環で呼ばれてね。挨拶はこれぐらいにして、彼を病院に運ぼうと思うんだけど、いいかな?」
大悟はこくりと頷き、鳥居の目隠しを外した。がっくりとうなだれたまま、鳥居は顔を上げようとしなかった。
「鳥居、病院へ行こう。警察の人が来てくれたから」
「行か、ない……」
震える声で鳥居は言った。
「行ったら、今までのこと、全部明らかになる!?」
「そうだね」
不自由な足にも関わらず、直人は鳥居と同じ目線になるよう、身をかがめてくれた。
「状況からして、君は勿論、ご両親にも話を伺うことになる。最大限プライバシーに配慮したとしても、君も、君の家族も、大きなダメージを受けることになるだろう」
直人は一旦言葉を切った。その後、意外なことを口にした。
「それを防ぐ方法がひとつだけある。今まで起きた全てのことに対して、君が一生沈黙を貫くことだ」
確かに鳥居が口を塞げば、全ては無かったことになるが、まさか警察官である直人がそれを口にするとは思いもしなかった。
「リハビリの一環で呼ばれたって言ったよね。実は俺、まだ療養中の身なんだ。ここへ来たのは職務としてじゃないんだよ」
大悟の疑問を解消すべく、直人は言った。レイに呼ばれたものの、警察官という立ち位置ではないということらしい。
「ごめんね、返事を待ってあげられる時間はないんだ。だから君がノーと言わない限り、俺は捜査をする。警察官として、無かったことにしたくないからね」
最後の言葉は直人の本音だろう。彼はポケットからスマートフォンを取り出し、どこかへ電話をかけた。
「お疲れさまです、桜井です。ええ、元気ですよ。実は──」
鳥居は無言で直人の腕を取った。そこでようやく顔を上げて言った。
「……俺は、何もされてない」
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