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第27話
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鳥居圭介の死から一週間後の午後、シラサカは久しぶりに会社へ顔を出した。
「あ、サカさん、久しぶり」
向かい側の席のマキがひょいと顔を覗かせる。ちなみに彼はせんべいをボリボリと頬張っていた。
「ちぃーす。レイは?」
経過報告も兼ねて顔を出すと言ってあった。この時間を指定したのはレイだったが、当の本人が見当たらない。
「経理部の手伝いに言ってる。またトラブったんだって。ウチら子会社なのにさぁ、なんかあったらレイに泣きつくのやめてくれないかなぁ」
「まあ、あいつひとりで何人分も仕事するからな」
「ボスにレイの配置転換をお願いしたらしいよ。そんなの絶対無理だしぃ」
ここぞとばかり、溜まっていた愚痴を吐き出すマキ。
「悪い、シラサカ、待たせたな」
そこに眼鏡をかけ、スーツ姿のレイが現れる。すぐさまマキは立ち上がり、持っていたせんべいを彼に差し出した。
「はい、これ食べて」
「いらねえよ。これからシラサカと打合せだ」
「でも、お昼食べてないじゃん!」
「そういうことなら、ゲンさんとこ行こうぜ。俺、コーヒー飲みたいし、レイは昼飯食えるしな」
これ以上マキが拗ねると厄介なため、シラサカはレイを外へと連れ出した。
会社近くにある昔ながらの喫茶店は、元ハナムラの人間が経営している。そのため、外での打合せはここを利用することが多い。シラサカはコーヒー、レイはランチを注文したのに、コーヒー二つと、サンドイッチや唐揚げ、ポテトサラダ等のメニューがテーブル狭しと並んだ。
「ゲンさん、これ、ひとりで食える量じゃねえし」
「シラサカ君の分もだ。残りは詰めてやるから、食えるだけ食うんだぞ」
自分はコーヒーしか頼んでいないのだがと思いつつ、それはどうもといって頭を下げておく。店主が去ったのを見届けてから、シラサカは言葉を発した。
「また貧乏くじ引かされてんだってな」
「ああ。無能な連中が多くて困る」
レイはそう言うと、サンドイッチを手に取って話を切り出した。
「カナリアと藤原の様子はどうだ?」
「それがさ、思ってたより、ふたりとも大丈夫そうなんだよね」
レイからふたりの様子を見ろと言われていたシラサカは、大悟は勿論、カズミとも頻繁に会い、ミカを交えた四人で何度か食事をした。ミカによれば、当日の夜はさすがに落ち込んでいたという話だったが、その後のカズミはいつもの通りの明るさを取り戻していた。
「カズミが学校行きたいって言ったら、ハニーも行きたいって言い出してさ。俺としては、そろそろいいんじゃないかと思うんだが」
「そうか。おまえの判断を尊重するよ」
「サンキュー。それで、鳥居勝馬はどうなってる?」
勝馬は、直人と共に松田の診療所で療養している。大悟とカズミは、彼のことが気になっているようで、早く会いたいと言っていた。
「かなり塞ぎ込んでいるようだ。このままなら、約束を反故にして、事を公にすることも考えているとナオは言っていた」
勝馬は兄圭介に好意を持っていたのだから、彼を殺したのは自分だと思っているだろう。十八歳の少年が全てを抱え込むには、あまりに厳しい現実である。
「そうか。会うのは難しそうだな」
「先生は、むしろカナリア達と会わせて、感情を吐き出させた方がいいんじゃないかと言っているんだが……」
そう言うと、レイは渋い顔つきになる。
「言葉は濁したし、顔も見せていないが、勝馬は気づいている。圭介を殺したのがおまえで、そこにカナリアが関わっていることをな」
レイの懸念はわかる、どん底に突き落とされた人間は何をするかわからない。その一方で、松田の提案にも一理あるとシラサカは感じていた。勝馬はまだ子供で、大事な人を奪われたショックを溜め込んでしまい、身動き出来なくなっているから。
「なら、ふたりに聞いてみるか」
どちらにしろ、無傷では終われないのだ。周りの大人がとやかく言うより、子供の彼らが判断を下し、行動すべきではないだろうか。
「ガキはガキ同士ってことか。あいつらのことだから、勝馬に会うと言い出すだろう。マキをガードにつかせるよ」
「いや、俺が行く」
シラサカの発言にレイは目を丸くした後、言葉を荒げた。
「さっきの話、聞いてなかったのか。勝馬はおまえが圭介を殺したことを知ってるんだぞ!?」
「だからこそだよ、恨むならハニーじゃなく俺だろ。直接手を下したのは俺なんだし、相手はガキだからな」
これ以上、大悟を傷つけるようなことはさせない。それが彼の友人であったとしても、シラサカは迷うことなく刃を振り下ろすだろう。
「わかった。そこまで言うならおまえに任せる」
「サンキュー、レイ。帰ったらふたりに話してみるわ。その後、ナオと先生に事情を話して会う手筈を整える。決まったら連絡するな」
自分に任せると言ったわりには、レイは厳しい顔を崩さなかった。やがて、シラサカをまっすぐ見つめ、こう言い放った。
「ひとつだけ忠告しておく。カナリアは諸刃の剣だ。忘れるなよ」
「は? 意味わかんねえんだけど?」
バカはこれだから困ると呟いて、レイは表情を和らげた。
「油断するなってことだよ。それから、気になることがもう一つ。鳥居圭介がなぜハナムラやおまえのことを詳細に知っていたのか」
レイはサンドイッチや唐揚げを口に運んだ。持ち帰るにしても量が多すぎるため、シラサカも手伝った。
「そりゃあ、調べたからだろ。大手新聞社の記者で、サツカンの情報屋に俺や組織のことを聞き回ってるって言ったの、おまえだろうが」
「サツカンの情報屋が、おまえの両親のことを知っていると思うか?」
言われてみれば、圭介はシラサカの両親のことも知っていた。
「ウチの事情を知る誰かが、俺の情報を流したってことかよ」
「おそらくな。日向の死にハナムラが関わっていることは、裏の人間なら誰もが知る話だ。わかっているからこそ、首を突っ込むような真似はしない。だからこそ、何も知らない外部の人間に情報を流し、立ち回らせた。おそらくその人間は、おまえとカナリアの関係も知っている」
「内通者がいるってことかよ」
「さあな。そうでないと思いたいね」
レイは明言を避けた。確固たる証拠がない現状では、仲間を疑いたくはないのだろう。だが、彼の懸念が現実であれば、実に厄介である。
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