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第29話
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レイとの打合せを終えたシラサカは、大悟を迎えに藤原家を訪れた。
「あ、ケイちゃん、おかえり」
ここはシラサカの部屋ではないのだがと心で思っていると、大悟君はカズミの部屋におるから、遠慮せんと入って、とミカに言われてしまった。オープンなのは結構だが、オープンすぎて気が引けてしまい、シラサカはカズミの部屋の前で一旦立ち止まった。いきなり中へ入るのは失礼かと思い、ノックをしようとしたものの……
「そんなことになってたの!?」
という大悟の声に、思わず聞き耳を立てた。
カズミはミカから外出禁止を命じられているようだった。学校へ行きたいと訴えたのは、こういう事情があってのことらしい。その後もふたりの話は続き、今度はレイを大絶賛する。この辺りからシラサカの機嫌は悪くなっていった。
謎の安心感って、わからなくもないけどさ。
レイの次は鳥居勝馬の話になった。カズミはともかく、大悟は彼に会うことを躊躇っているようだった。そこからカズミの考察が始まる。関西弁のせいで緊張感には欠けるものの、レイに引けを取らない鋭さだった。
あいつ、ウチでやっていけんじゃねえの。
シラサカはその場で腕組みをして、カズミの言葉にうんうんと頷いていたのだが……
「俺は大悟のことめっちゃ好きやったけど、ケイちゃんのような覚悟は無かったからな」
という言葉で我に返った。
おいおいおい、何言ってくれてんだよ!?
違和感に気づいた大悟が問い質したとき、シラサカはノックもせずに部屋に立ち入り、ひょいと彼を抱え上げ、挨拶もそこそこに、自分の部屋に連れ帰ったのであった。
「もう、ミカちゃんさんに挨拶しないで出て行っちゃったじゃない!」
「ミカちゃんはそういうの気にしないから」
リビングのソファーに大悟とくっついて座る。子供じみていることはわかっているが、シラサカはまだ不機嫌なままである。
「なんで怒ってんの、K」
様子がおかしいことに気づき、大悟が話しかけてきた。
「別に」
「藤原とは、ただ話してただけだよ」
「知ってる。レイのこと褒めてたよね」
「聞いてたの!?」
「俺には謎の安心感とかないから」
「Kには絶対的な安心感があるよ」
今の一言は効いた。シラサカの機嫌は上昇したが、その後の話題を思い出し、また不機嫌になる。
「でも、カズミに告白されてたよね」
「いやだから、あれは冗談で」
「冗談なんかじゃないよ。カズミはハニーのことが好きだった。俺、知ってたし」
初耳だったらしく、大悟は目を丸くした。
「俺はカズミからハニーを奪った最低な奴なんだよ!」
大悟に嫌われたくなくて、一生黙ってるつもりだったのに、勢い余って、シラサカは真実をぶちまけた。
「だったら、俺も最低だよね」
しばしの沈黙の後、大悟は言った。思わず顔を背けたシラサカの頬に両手を置いて、こちらを向かせる。彼は優しく笑っていた。
「藤原の気持ちに気づかず、傷つけてきた」
その後、唇に触れるだけのキスをした。
「でも、藤原の気持ちには応えられない。俺が愛してるのはKだけ。誰に何を言われても、K以外は好きにならないよ」
もやもやした気持ちが全部吹き飛んだ。大悟のまっすぐな気持ちはシラサカの心の奥深くまで癒やしてくれた。
「ごめんね、ハニー」
そう言うと、シラサカは大悟を強く抱きしめた。
「俺の側にいたら、最低が増えていくばかりだね」
大悟もまたシラサカをぎゅっと抱きしめてくれた。
「いいよ、最低でもなんでも。俺はKさえいればそれでいい」
「俺も。ハニーが側にいてくれたら、怖いものはないから」
「藤原との話を聞いていたならわかると思うけど、鳥居のお見舞い、どうしたらいいかな?」
抱きしめ合った姿勢のまま大悟に問われ、シラサカは逆に訊ねた。
「ハニーはどうしたいの?」
「俺が顔を出したら、鳥居の傷を広げるだけかなって思ってたけど、藤原の話をきいたら、むしろ俺が行かなきゃって思った」
大悟は医師の松田と同意見のようである。
「そっか。じゃあ、俺も一緒に行くね」
シラサカの言葉に驚き、大悟は体を離して言った。
「Kはダメだよ、Kが行ったら──」
続きは唇で塞いだ。大悟が心配するのはわかるが、彼を護るのはシラサカの役目であり、これだけは他の誰にもさせたくない。
「心配しなくても、俺がどうにかなることはないよ」
優しく頭を撫でても、大悟は不安そうだった。
「さっきカズミも言ってたじゃん。俺には、全力でハニーを護る覚悟があるって」
シラサカの主張を聞いて、大悟は身を乗り出してきた。
「それは俺もだよ!? 出来ることは限られてるけど、俺だって、Kを護るんだからね!」
だーかーら、泣かすなっつーの。
心で呟いてシラサカは苦笑する。
「うんうん。ハニーがいてくれたら、俺、無敵になるからね」
「危ないことしないでよ、K」
「大丈夫だって。じゃあ、ハニーとカズミと俺の三人で先生のところへ行くってことで。先生とナオに話をして、日程調整するな」
こんなに誰かを愛して、愛される幸せは今まで経験したことがなかった。こんなに幸せでいいのだろうかと、内心不安になるシラサカだった。
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