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第31話
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「なんで今回は一緒じゃねえんだよ」
大悟とカズミを連れて、シラサカは松田の診療所にやってきた。中にいる鳥居勝馬と顔を合わせないようにするため、車で待機していた。
『俺までそっちに行くと目立つんだよ』
車内のモニターで、大悟達の様子を見ていたら、勝手にレイが割り込んできた。彼はマキを運転手にして、診療所近くに車を停めて待機していた。
「そんなとこにいる方が目立つだろ。しかもマキまで」
『こいつは勝手についてきた』
『レイ、昨日会社に泊まり込んだんだよ。理由聞いても答えてくれないしぃ!』
膨れっ面のマキの顔がモニターに割り込む。大悟以外の顔を見たくなくて、シラサカは目を反らした。
「そんなに心配しなくても、先生んとこは安全地帯だろ」
松田の診療所に手を出すことはご法度。これは裏の人間なら誰も知るルールである。
『防犯カメラに度々不審人物が写り込んでいると、先生から連絡がきていてな』
「へー、どこの命知らずだよ」
『鳥居勝馬がこちらに来てからのことだそうだ』
その言葉でシラサカはモニターを見やった。画面の左側半分に映し出されたレイの表情は厳しいものだった。
『診療所にはずいぶん前からナオがいる。あいつが捜査一課の刑事で、直属の上司が警視総監だということは調べればすぐにわかる。不審人物の捜査も警察にまかせておけばいいかと思っていたんだが、昨日鳥居勝馬の両親が事故死した』
鳥居圭介はまだ死亡扱いにはなっておらず、依願退職で会社を辞めた後、行方不明という形になっている。勝馬の立ち回りによって圭介の扱いが変わるため、身内である両親には何も伝えていないという話だった。
「それ、マジの事故死かよ」
『勝馬の携帯に警察から連絡があったそうだ。ナオから蓮見さんに連絡を入れて、彼に立ち回ってもらっている。交通事故だという話だが、原因はまだわかっちゃいない』
「交通事故ならいくらでも仕込めるわな。だとすれば、鳥居勝馬は何か握ってるってことかよ」
『そう見られている可能性があるってことだ。今日の訪問も中止にするか迷ったんだが、そうなるとカナリアと藤原に不安を与えかねないからな』
「そういうことは、先に言えっつーの!」
シラサカは緊急用にと渡されてあったイヤホン型の通信機に右耳に突っ込んだ。すぐさま車を降り、後ろのトランクを開けて、黒いロングコートを片手に診療所へと向かう。両サイドのポケットには拳銃が入れてあった。
『どうだ、周囲の様子は?』
中に入る前に、シラサカは歩いて建物を一周した。それをわかって、レイが訊ねてきた。
「何人かいるようだが、手を出してこない限り、動けねえよ」
何もされていない現状、こちらから動くことも、排除することも出来ない。それをわかっているから、向こうも気配を消すこともなく、知らぬ顔で佇んでいる。
『わかった。大至急ボスにかけ合ってみる』
「頼んだ。俺は中でハニー達の様子を見てくるわ」
レイとの通信が切れると、シラサカは診療所の中へと足を踏み入れた。
「あれ、ケイちゃん?」
勝手知ったるで歩いていると、皿にケーキを乗せた盆を持ったカズミと、同じく飲み物を盆に入れた松田と出会った。
「おまえだけ? ハニーは?」
「いや、まあ、沈黙に耐えられへんかって、すぐ戻るけど……」
シラサカは舌打ちし、松田に病室の場所を聞いて駆け出した。
勝馬はこうなった原因が大悟にあると思っている。カズミを責めるつもりはないが、彼らを二人きりにするのはマズい。
病室に辿り着き、静かに引き戸を開けて中に入る。勝馬は大悟に向かって、医療用のナイフを振り上げていた。
ほら、言わんこっちゃない。
シラサカは彼らの間に割って入り、勝馬が持っていた医療用のナイフを素手で掴んだ。
「遅くなってごめんね。大丈夫? 怪我してない?」
「俺よりKが……!?」
これぐらいの傷はなんでもないが、大悟はショックを受けているようだった。
「あー、大丈夫、大丈夫。ここには優秀なドクターもいるしね」
更に後からやってきたカズミは、シラサカが血を流している姿を目撃し、真っ青になって震え出す。以前まだ包丁を持てないと言っていたことからして、刃物による傷は、カズミにとってトラウマなのだろう。
これ以上、長引かせるわけにはいかないな。
『……私の友人に害を及ぼす者がいるというのなら、遠慮はいらない』
そのとき、通信機越しに花村の声が飛び込んできた。
『やれ、シラサカ。後のことはどうとでもなる』
オーケー、ボス。まかせてもらえて、有り難いですよ。
大悟とカズミだけでなく、ここには勝馬がいる。自分のことはともかく、花村の名前も気配さえも出してはならない。両手で拳銃を握りしめ、シラサカはこう叫んだ。
「さあ、ショータイムの時間だ!」
窓ガラスに向かって銃弾を放った後に駆け出し、ガラスを突き破って外へ出る。派手な衝撃音に誘われて、潜んでいた人間達が姿を現す。両手の拳銃を使って、一人一発で確実に仕留めていく。
「僕も忘れないでよね、サカさん」
そうこうするうちに、右手の方向からマキがやってきて、背中を突き合わせる。
「えー、カッコいい俺、ハニーに見せつけたいのに」
「右手、怪我してるじゃん。それ以上やったらカナカナが泣くよ。こっちは僕にまかせて」
大悟が泣くのは困るので、ここはマキに甘えることにする。彼が加勢してくれたこともあり、五分もしないうちに終わった。
「……K!?」
声に振り返れば、大悟が必死の形相でやってきた。
「ごめんね、ハニー、怖がらせ……え、ちょ、ちょっと!?」
有無を言わせず、右手の拳銃を取られ、そのまま引っ張られる。
「なんであんな無茶したの?」
こう言ってはなんだが、シラサカにとって、あんなものは無茶でもなんでもない。掠り傷である。
「早く手当しなきゃ」
「いや、だから……」
立ち止まって振り向いた大悟の目は、涙で潤んでいた。
「Kが傷つくところを見たくない。俺のせいで血を流すところ、見たくないんだよ!」
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