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第34話
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「待って、先生、麻酔無しとか有り得ないから!?」
「車の中で、てめえのイチモツ咥えさせといて、何言ってやがる」
「サカさん、カナカナにそんなことさせてんのぉ。鬼畜ぅー」
そう言って、マキはケラケラと笑う。
「違うよ、俺が勝手にやったことで!?」
「ここがどこかを考えれば、全力で止めるのが大人だろうが」
大悟は事情を説明しようとしたが、松田は聞く耳を持たなかった。
「その台詞、そっくりそのまま返しますよ!?」
Kの右手の傷は思っていたよりも深かった。縫った方が治りが早いという松田の提案で処置することになったが、手のひらを麻酔無しで縫合しようとする彼に、Kは全力で抗った。
「真面目な話、兄ちゃんなら大丈夫だと思うがな」
「手は感覚器ですよ。針で刺されれば、痛いに決まってるじゃないですか」
ふたりの会話からして、ここで傷の手当をしてきたということだろう。今よりもっと酷い怪我だったことが窺える。
仕方ないなと言って、松田は慣れた手つきで薬のアンプルを開け、注射器で吸うと、右手の何ヶ所かに打った。
「K、大丈夫、痛くない?」
痛いのは怪我をしたKの方なのに、側で見ている大悟も辛くなってきた。
「麻酔打ったからね。マキ、ハニーを連れて外に」
「はーい。カナカナには刺激が強いよね」
「大丈夫。ちゃんと見ておくから」
Kは自分を庇って怪我をしたのだ。ここで目を背けるわけにはいかない。
「そういうことなら、遠慮なくやるぞ」
麻酔のせいか、Kは平気そうだった。松田が慣れた手つきで傷口を縫っていく様に、大悟は感心した。
やがて、手持ち無沙汰になったらしいマキがこんな話を始めた。
「それにしてもだよぉ、ドクターんとこに刺客送るなんて、あの子、とんでもない秘密握ってんじゃないの」
あの子=勝馬のことである。Kが彼の目の前で拳銃を出したということは、それだけ切羽詰まった状況だったということだろう。
「本当に秘密を握ってるなら、俺達が来る前にバラした方が効率がいいと思うんだが」
「確かに。じゃあさ、なんであんなにネズミが張りついてたわけ?」
マキの質問に答えるように、診察室の引き戸が開いた。
「俺達の出方を見たかったんだろう」
やってきたのはレイだった。扉を閉めると、なぜか鍵をかけた。
「今回の事の始まりは、鳥居圭介が日向の死を他殺だと疑ったことだ」
「だから事件の唯一の生存者であるカナカナに話を聞きたいって言ったんだっけ?」
マキの問いかけに、大悟は頷いて言った。
「日向は自殺するようなタイプじゃないからおかしいって言ってた。それから、俺がなぜハナムラグループに引き取られたのかも疑ってた」
「圭介は大手新聞社の記者だ。スクープも何度か上げている。大きな看板を背負って取材する以上、信頼出来る筋の話でないと動くことはしないだろう」
「つまり、ハナムラのことを知ってる誰かが、カナカナの情報を流したってこと?」
マキの言葉に大きく頷き、レイは話を続けた。
「鳥居勝馬がここへ来てからの二週間、診療所の防犯カメラの映像を解析したところ、約一名、気になる人物の名前が出てきた」
「なるほど、あの、クソジジイなら有り得る話だな」
傷口の縫合を終え、松田はKの右手に包帯を巻いた。処置が終わると立ち上がり、Kに頭を下げた。誰であろうが容赦せず、謝ることなんてしないであろう松田の行動に、大悟は勿論、マキもぽかんと口を開けたまま、唖然とした。
「どういう経緯であの少年に医療用のナイフが渡ったのかはわからん。だが、この診療所内で起きたことは全て俺の責任だ。すまなかった」
言われてみれば、なぜ鳥居はあんなものを持っていたのだろうか。
「先生、頭を上げてください。こんなの、転んで擦りむいた傷と同じですよ」
そう言ってKは笑う。彼が掠り傷だと言ったのは、松田に気を遣ってのことだったのかもしれない。
「転んで擦りむいて縫うわけねえし、薬なんか出さねえよ」
頭を上げた松田は、大悟に錠剤の薬を差し出した。
「化膿止めの抗生剤だ。一日一回、必ず飲ませろよ」
薬を受け取る大悟。Kではなく、自分に渡してくれたことが嬉しかった。
「話戻すけどさ、ドクター、クソジジイって」
思い当たる人物がいるらしく、マキは厳しい表情になる。
「ハナムラの関係者の人間は全員診るって話になってたし、あの少年がここへ来る以前に決まっていた話だ。クソジジイの健康診断はな」
松田の言葉に、Kもレイもマキも表情を曇らせる。
「ねえ、その人って──」
大悟が訊ねようとしたとき、扉がガタガタと音を立てた。
「あれ、開かへん? 大悟、ケイちゃん、大丈夫なんか!?」
藤原の声だった。診察室に鍵がかかっていることを不審に思ったらしい。レイがすぐに鍵を開けにいった。
「あれ、ナンバー3もおるやん」
「俺の名前はレイだと言ったはずだが。何の用だ?」
「いや、鳥居が目覚ましたでって連絡を」
そうかと言って松田は藤原の元へ向かい、彼の頭をポンポンと叩く。
「処置は終わったから、兄ちゃん達は帰っていい。但し、藤原少年はここに泊める」
「え、なんでや、先生!?」
藤原は驚いて声を上げた。
「発作起こしてといて、帰らせるわけないだろ。ハルミに殴られる」
やはり松田は、藤原の義父と関わりがあるらしい。
「アカンって、ミカちゃんとオトンにバレたら、強制送還されるやん!?」
「そうなりたくなかったら、素直に養生しろ」
そう言うと、松田は藤原を連れて、診察室を後にした。
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