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第39話(第一部終了)
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「あれ、ケイちゃんとナンバー3やん。大悟は?」
勝馬の病室を出てすぐ、カズミと治巳に出会った。
「俺の名前はレイだと、何回言えばわかるんだ!」
「細かいことはええやん。マッキーから伝言や。駐車場の客が呼んどるって」
治巳がマキをそう呼ぶのなら、カズミもそうなるのは仕方ない。変な呼び名がどんどん広がっていることに、不安を覚えるシラサカであった。
「わかってる。治巳さん、後は頼みますよ」
「そやな。ほら、行くぞ、バカ息子」
レイも治巳も事情をわかっているらしく、目を合わせた瞬間、表情を強ばらせた。
「行くってどこに?」
カズミに問いかけられると、治巳はすぐ表情を緩めた。
「俺の新しい息子君のところや。辛うじておまえが兄貴らしいで」
「は? 兄貴?」
「俺の養子になるっちゅうことは、必然的におまえと兄弟になるやろ」
「え、そうなん?」
藤原親子の話を聞いていると、ここがどこだかわからなくなる。それはレイも同じだったようで、大きな溜息をついた後、歩を進めた。
「なあ、いったい誰が来てんだよ」
レイとふたりになったことを確認し、シラサカは訊ねた。
「ボスと草薙だ」
花村は裏社会のトップ、草薙は警視庁のトップ。裏と表のトップが、揃って日中に松田の診療所に現れるのは意外なことである。
「珍しい組合せだな。怪我でもしたのか?」
花村でないことは、レイの様子でわかる。
「背後から脇腹を刺されたらしい」
そうこうするうちに、診療所の外へ出た。駐車場に停められた黒塗りの高級車の前には、ナオと話をするスーツ姿の男がいた。
「なんだ、そっちの殺し屋まで来てんのかよ」
以前、草薙を連れて自宅マンションの駐車場へやってきた。直人の同僚の蓮見だった。
「シラサカ達は別件です。先生は?」
「車内で処置中」
「やはり、入院する気はないってことか」
レイは失望の溜息をつき、腕組みをした。
「おたくのボスから突然連絡がきてさ、俺、殺されんのかって思ったわ。怪我してる草薙さんをここまで運べって言われて、草薙さんには拒否されて、血も凍るやり取りが何回もあってな、生きた心地がしなかったぜ」
診療所までの足として、蓮見は呼ばれたらしい。しかも花村と草薙のバトルを目の前で見せられたというのだから、そう思って当然だ。
「どうするんです、蓮見さん。本来なら大事件ですよ」
動揺を隠せない直人。警視総監の傷害事件となれば、確かに大事件である。
「そうだよ、そうなんだけどな。草薙さんが頑として口を割らなくてよ」
蓮見は困り果てているようだったが、シラサカからすれば、警視総監が刺されようが、どうなろうが、どうでもいいことだった。
「ここに置いておくわけにいかないとなると、おまえのとこしかないな」
レイは腕組みをしたまま、なぜかシラサカを見つめた。
「は? 何言ってんの?」
言葉の意味が理解出来ず、シラサカは首を傾げた。
「おまえん家に草薙を泊めろって言ってんだよ」
「はあ!?」
たまらずシラサカは大声を出した。
「警視庁のトップが何者かに刺されたんだ。それ相応のセキュリティが必要だろう」
「有り得ねえだろ、なんで俺が警察の人間を家に泊めなきゃなんねえんだよ!?」
「おまえはナオを泊めた実績がある」
レイは当然のように言った。
「あん時はハニーのことがあったからって、違うだろ、おまえが泊めろって言ったんだろうが!?」
直人がシラサカの部屋に泊まったことは事実ではあるが、レイの一存によるものであった。
「今度は俺じゃない。この流れからして、そうなるのは決定的だろうが」
これだから無能な人間は困ると呟き、レイは大げさに肩をすくめた。
「そうだよ、俺は無能だよ、おまえみたいに頭はよくねえからな!?」
「なんだ、シラサカ、いたのか」
シラサカが反論を始めたとき、車内からひとりの男が降りてきた。一目で高級とわかるスーツをきて、いつも以上に厳しい表情をした花村だった。
「あ、ボス、お疲れさまです」
存在だけで場の空気を一転させた。レイはすぐさま頭を下げ、直人と蓮見もその場で直立不動となった。
「レイから聞いたと思うが、草薙が怪我をした。ここで療養しろと言ったが、仕事があるからと拒否された。松田と共に説得を試みたが、聞いてもらえない」
「まさか、俺ん家にとかじゃないですよね?」
このままではレイの言った通りになってしまうと、シラサカは慌てた。
「そうだ。おまえの家だと警視庁も近いし、松田も来れる。何よりセキュリティは完璧だ」
「相手は警視庁の人間ですよ!? 殺し屋の家に警視総監がいるなんて、有り得ないですよ!?」
「確かに有り得ない。だが、有り得ないからこそ、誰も気づくことはないだろう」
シラサカの正論は、花村によってすぐ論破された。組織のナンバー2であるシラサカも、花村の命令にはノーとは言えない。
「無理を承知で頼みたい。しばらく草薙を泊めてやってほしい」
そう言うと、花村はシラサカに頭を下げた。こうまでされたら、断ることなんて出来やしない。
「わかりました、わかりましたから、頭を上げてくださいよ、ボス!」
泣く泣く承知したものの、内心シラサカはこう思っていた。
いやだから、殺し屋の家に警視総監が居座るなんて、有り得ねえっつーの!
この草薙の一件から、事態は大きく動き出すことになる。
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