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第43話(前編)
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以前、組織のボスを解任された花村和臣と草薙が何らかの関係を持っていることを悟ったシラサカは、警視庁に彼を送り届けた後、レイにその旨を伝えた。
(やはりそうか。あれから色々調べたが、興味深い事実がわかったぞ)
電話で話せる内容ではないと言われ、外で落ち合うことを了承したが、その際、大悟も連れてくるようにとレイは言った。
(カナリアには高校へ行ってもらうことになる。本人も行きたがっていたしな)
(それはカズミと一緒での話だろ。なんでまたハニーひとりで学校なんだよ)
(藤原や鳥居勝馬を、組織の揉め事に巻き込むわけにはいかないからだ)
詳しい話は会ってからと言われ、シラサカの定宿である高級ホテルで、先に朝食を取ることにした。ここは大悟との初デートの場所でもあったので、その間は楽しく過ごすことが出来た。
「レイ、おはよう」
いち早く彼の姿を見つけた大悟は、立ち上がって挨拶をする。
「おはよう。邪魔して悪いな」
「ちょうど食べ終わったところだから」
ウエイターが水を持ってやってきたので、レイはホットコーヒーを注文した。黒縁の眼鏡をかけた彼は、スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩めて一息つく。ずいぶん疲れているように見えた。
「昨日、会社に泊まったな」
「臭うか? シャワーも浴びたし、服も着替えたんだが」
「そうじゃなくて。目の下の隈、酷いぞ。マキが大騒ぎしたんじゃないのか」
「絶交だって泣かれたから、家に帰ると言って出てきたよ」
そう言うと、レイは肩をすくめた。ふたりのやり取りが目に浮かんで、シラサカは大悟と顔を見合わせて笑った。
そうこうするうちに、レイが頼んだコーヒーが運ばれてきた。ウエイターが一礼して去ったのを見届けると、彼は話を切り出した。
「鳥居勝馬が持っていたロケットペンダントには、マイクロSDカードが入っていた。そこには、とある場所で隠し撮りされた映像と音声が記録されていた」
「鳥居圭介の情報提供者ってことかよ」
シラサカの言葉に頷くと、レイはテーブルに頬杖をつき、厳しい表情になった。
「隠し撮りだから顔は映っていない。場所はおそらく会員制のクラブ。だが、声に聞き覚えがあった」
そこでレイはシラサカを見やる。どうやら予想的中ということらしい。
「やっぱりクソジジイか」
「どういう人なの? ドクターも同じように言ってたよね?」
昨夜草薙へ話した内容を大悟にも聞かせた。そして、クソジジイが和臣であることを断言した。
「鳥居のお兄さんに情報を提供したのは、その人だったってこと?」
「和臣自身は決定的な言葉を発していない。そういう組織があり、彼らについて詳しい人間を知っているから、紹介すると言っていた」
「つまり、和臣側についてる人間が、俺達の近くにいるってことか」
シラサカの言葉に大きく頷くと、レイはよりいっそう厳しい表情になった。
「そこでだ。カナリアには学校へ行ってもらう。クラスも同じ、今まで通りのスタンスでいい。ただ、担任が変わっているはずだから、そいつをそれとなく見張っとけ」
「却下。ハニーひとりでそんなところに行かせられない!」
大悟をひとりで学校へ行かせることは反対だった。クラス担任が和臣側の人間なら、尚更である。
「俺は大丈夫だよ、K」
大悟は笑って、シラサカを諭した。
「でも、危ないだろ!?」
「心配してくれるのは有り難いけど、俺もハナムラの人間だよ」
レイは大悟を組織の一員として扱う。それは間違いではないし、シラサカもわかっている。わかってはいても、大悟を危険に晒すのは嫌なのだ。
「相手はカナリアとおまえの関係性を知っている。カナリアに手を出せば、どうなるかもわかっている。余程の事がない限り、手を出してくることはねえよ」
反対しているのはシラサカだけだし、こうまで言われたら折れるしかないだろう。
「わかった、わかりましたよ! けど、学校までの送り迎えは俺がやるからな」
「ああ、よろしく頼む。俺としてはそっちの問題より、次の話の方が重要だ」
そう言うと、レイは姿勢を正し、声を潜めた。
「結論から言う。一時的ではあるが、ボスは警察の人間だったことがある」
レイの発言に、シラサカも大悟も目を丸くする。
「なんでまたボスが?」
シラサカが花村と出会ったとき、既に彼は裏社会の人間だった。警察とは真逆の非情な人間であった。
「ナオの手伝いも兼ねて、草薙の過去を調べた。草薙の家系は代々警察官僚で、生まれたときから警察の人間になるのが決まっている家だった。父親も祖父も曾祖父も、警察官僚に上り詰めた後に終わってる」
「終わってるって、死んでるみたいな言い方だな」
シラサカの言葉に頷くレイ。
「そうだ。草薙の祖父も両親も、既にこの世にいない。父親の強い薦めで一度結婚しているようだが、すぐ離婚していて子供もいない。親族は残っているようだが、草薙が死ねば、直系は絶えることになる。無論、表向きの事情が全て真実だった前提での話だが」
「草薙さんに怪我させたのは、元奥さんかもしれないってこと?」
大悟が言うと、レイは表情を緩めた。
「そうだな。一方的な離婚だったようで、近しい人物で草薙を恨んでるとすれば、このとき結婚相手ってことになる」
「すごいじゃん、ハニー。探偵みたいだよ」
シラサカが褒めると、大悟は嬉しそうに笑う。自分達のやり取りを見て、レイがげんなりしたのは言うまでもない。
「そんな簡単な話じゃない。この女性には交際相手がいた。無理矢理に引き離されて、草薙と結婚させられた。そういう事情もあって長続きせず、半年程で離婚。女性は元交際相手と再婚した。今は北海道在住で、犯行当日のアリバイも完璧だ。このことからして、犯人は草薙の身内関係じゃない。だとすれば」
レイが大悟に問いかける。しばらく悩んだ後、彼はこんな言葉を発した。
「警察の人。勿論ナオ達を除いた警視庁の人じゃない?」
今度は満点と言って、レイは笑ったが、すぐに厳しい表情になった。
「草薙の警視総監在任期間は、ここ最近では一番長い。そのことを疎ましく思っている人間がいることは確かだ。奴が死ねば、席が空くからな」
「つまり、草薙の事件は警察上層部の犯行ってことかよ」
シラサカが言った。
「残念ながら答えはノーだ。自分の後釜に刺されて、草薙が黙ってるとは思えない。大々的に捜査して、確実に追い詰めるはずだからな」
レイが言うように、現職の警視総監を消すリスクは大きい。本気で草薙を殺すつもりなら、それこそハナムラに依頼がくるはずだ。
「今わかってる犯人の手掛かりは、警視庁の人間ってことだけだね。これとボスが警察の人間だったって話はどう繋がるの?」
大悟が言うように、肝心なところが繋がっていない。
レイは大悟にノートパソコンを開けさせた。シラサカには全くわからないやり取りをした後、画面に松田の姿が映り込んだ。
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