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第43話(後編)
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『なんだ、また新しい怪我人か?』
「違いますよ。今、お時間大丈夫ですか?」
松田に対しては、常に低姿勢のレイである。
『三十分後に往診に出掛ける。それまでならいいぞ』
「では、単刀直入に聞きます。ボスが警察官だったというのは本当ですか?」
レイの言葉に松田は面食らったが、大きく息を吐き出した後、苦笑いを浮かべた。
『そうだ。学生時代の花村は、稼業を継ぐつもりは全く無かったからな』
友人である松田が言うのだから、間違いはないのだろう。
『花村も草薙も、自分達の家を忌み嫌ってた。だからこそ、二人は意気投合したんだろうな。親父の背中を見て、なんとなく将来を決めた俺やヤスオカと違って、あいつらは信念を持っていた』
以前情報屋のリーダーであったヤスオカも、父親が同じ稼業でハナムラに従事していたから、その跡を継いだと言っていた。
『その信念は警察学校でも同期だったあいつが死んで吹き飛んだ。そこからだよ、花村が変わったのは』
「その人物のことを、お教えいただきたいのですが」
『言いたくねえなぁ。俺だけの話じゃねえし』
画面上で、レイと松田の火花がバチバチと散る。シラサカと大悟は見守るしかなかった。
「でしたら、これを見ていただけますか」
レイがキーボードを叩くと、画面が分割された。そこに名前がずらりと記載された一覧表が現れる。すぐさま松田が顔色を変えた。
「ボスが入校した年の警察学校の名簿です。全員のその後を調べました。ボスと同じ高校から入校している人物がいました」
これをレイひとりで全て調べたらしい。目の下の隈の理由がこれでわかった。
『忘れてたわ、おまえがやたらと頭が回るガキだったってこと』
やれやれと言ったように肩をすくめた後、松田は観念した。
『おまえの見立て通りだ。藤井英介(ふじいえいすけ)。俺らのダチだった。特に花村とは気が合ってな。二人揃って警察学校に入りやがったくらいだ』
松田の話を聞きながら、レイは画面を大きくした。彼が言うように、花村の名前の少し後に、藤井英介という名前があり、警察学校卒業後に事故死となっていた。
「どうして彼は亡くなったんですか?」
『知らせを聞いたのは、あいつが骨になってからだ。慌てて自宅に行ったが、引っ越した後だった。花村とヤスオカはダンマリで、草薙に聞いたら、英介を殺したのは俺だとか言い出して、訳が分からなかった。俺は俺で医者になるのに必死だったから、どうすることも出来ず、その後何年も音信不通になった。色々あった後、花村とは持ちつ持たれつの関係になって、その流れで草薙とも話す機会が出来た。時間も経ったからいいだろと言っても、あいつは話そうとしないんだよ』
初めて知る花村の過去に、シラサカは驚いた。警察官であった彼が、その真逆の世界に飛び込んだのは、友人の死がきっかけであったことも。
だからこそ、俺を引き取って、生かそうとしてくれたのか。
ドイツで父を、日本で母を失ったシラサカは当時十五歳だった。生きる意味などないからと、何度となく死のうとしたが、その度に花村に助けられた。
(世界には正義を輝かせるための悪が存在する。そうすることで善悪のバランスを保っている。我々の仕事はそのバランスを崩す害悪を消し、世界の秩序を正すことだ)
闇は光が輝くためにある。闇が深ければ深いほど、光は輝きを増す。
やってることはただの人殺しで、断罪されても文句は言えない。それでも、ハナムラという組織があるからこそ、世界の均衡は保たれている。それは紛れもない事実なのだ。
「有益な情報をありがとうございました」
『俺が話さなくても、わかってたんじゃねえのか、少年よぉ』
「全ては推測でしたから、当時を知る先生と答え合わせをさせていただきました」
松田に対して低姿勢であっても、レイはハナムラの情報屋のリーダーとしての立場も忘れていない。
俺なんか、とっくに追い越されてんじゃねえの。
レイがハナムラのブレーンといわれる所以はここにある。
『草薙をそっちに預けた時点で、こうなることはわかっていた。本来は花村に頼むべきことだが、あいつもダンマリだから、おまえらに頼んでおく。草薙から目を離さないでやってほしい。もし奴が暴走したら止めてくれ』
そう言って、松田は頭を下げた。
『これは俺個人の、二人の友人としてのお願いだ。おまえらに出来ること、出来ないことがあるのはよくわかっている。だが、今の草薙は英介が死んだときと同じ目をしている。表面上は普通にしている花村に関してもだ』
「わかりました、先生!」
返事をしたのはレイではなく、どういうわけか大悟だった。
「え、ちょっと待って、ハニー!?」
「草薙さん、俺を助けてくれたよ。警察なんか大嫌いだったけど、俺を信じてくれたし、謝ってくれたから!」
松田の話に感動したのか、大悟は目を潤ませている。シラサカとしては、もう十分過ぎる程見てやってるのに、これ以上関わりになりたくない。
「じゃあ、草薙のことは、引き続きおまえらに頼むな」
レイに念押しされた。大悟から言い出したことなので、こうなれば反対なんて出来やしない。
何回も言うけど、俺は殺し屋だし、相手は警察だからな!?
シラサカの心の叫びとは裏腹に、草薙は引き続き留まることが決まったのだった。
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