アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第46話
-
翌日は学校に間に合う時間に起きた。簡単な朝食を終えた後、大悟はKと共に地下駐車場までエレベーターで降り、車の助手席に乗り込んだ。
「じゃあ、学校までドライブね」
以前と同じ日常が戻ってきた。制服であるグレーのブレザーとスラックスを着て、紺色のネクタイは車内でKが結んで、その後はキスをくれる。Kは青色の瞳を隠すため、薄いブルーの色付きサングラスをかけて、ジャケットにジーンズという服装で車を走らせた。
「Kも会社に行くの?」
「そうだな。たまにはマキの愚痴も聞いてやらないとな。ハニーを迎えに行くまでの暇潰しも兼ねて」
暇潰しに会社に行くなどと言えるのは、Kの仕事が殺し屋だからである。ちなみに、大悟が学校へ行くことになったため、草薙の警視庁への送迎は蓮見がやることになった。
「勿論、何かあったら飛んでいくからね」
学校にいるのだから飛んでいけるわけなどないのだが、Kの気持ちが嬉しくて、大悟はこくりと頷いたのだった。
「おはよ、花村、久しぶりじゃん!」
大悟が通う私立高校は、花村が出資しているため、ここではハナムラグループ代表の花村謙三の養子、花村大悟ということになっている。
「カナダに行ってたんだろ? 藤原も一緒じゃねえのかよ」
長期間休んでいたためか、クラスの人間が何人か集まってきた。
「おはよう。藤原は別の事情だから」
「たまたまとはいえ、重なるとキツいよな。鳥居はあんなことになったし」
「あんなこと?」
世間的に鳥居がどうなっているのかを知るため、大悟は知らないふりをした。
「なんだ、知らなかったのか。事故で身内が全員亡くなったってさ」
鳥居圭介の死も、両親の事故に紛れ込ませたようである。さすがはレイというべきか。
「そういやさ、担任が突然入院してさ。新しい先生になったんだぜ」
「サユリ先生、超エロい!」
「大人の色気全開だよな」
どうやら新しい担任はサユリという名前の女性らしい。
その名前、どこかで聞いたことがあるような……?
「あなたが花村大悟君かしら」
噂をすれば影。背後から女性の声が聞こえてきて、大悟は振り向いた。
「初めまして。本田先生がお休みの間、代理を務める加藤サユリよ」
思わず声を上げそうになった。以前、Kと共に花村に挨拶へ行った際、側にいた女性である。あのときと同じ、黒髪をひとつにまとめ、黒いスーツに眼鏡をかけている。Kいわく掃除屋のリーダーで、後にレイから花村の秘書的な仕事もしていると聞いた。
「皆のことを知るために、ひとりずつ面談しているの。朝のホームルームが終わったら、あなたも来てね」
レイはこの事を知っていた。だから大悟をひとりで学校へ行かせたのだ。
この人が鳥居のお兄さんに組織のことを話したってことか。
朝のホームルームで教壇に立つサユリを、大悟は複雑な心境で眺めた。
「そんなに睨まないで、黄色い小鳥君」
ホームルームが終わると、大悟はサユリと共に化学準備室に入った。教科担当は化学ということからして、理科の教員免許を持っているようだ。
「俺の名前はカナリアだよ」
黄色い小鳥なんて、バカにしているとしか思えず、大悟は不服を訴えた。
「そうね。あなたはもう、私達と同じハナムラの人間だったわね」
ふたりきりになったからか、サユリは口調を変えた。その後、黒のスーツの上に白衣を羽織ると、大悟に近づき、右手で顎を持ち上げる。
「シラサカが夢中になり、レイが存在を認めた情報屋のカナリア。本当に可愛い」
全身から鋭い空気を発するサユリ。教壇に立っていたときとは正反対の彼女に、大悟は恐怖を感じた。
「私も、欲しくなっちゃった」
声色が変わった。それは、男を誘う妖艶なものだった。
「全身を切り刻んだら、どんな声で鳴くのかしら」
発した言葉で危険を察知する。関わってはいけないと全身が訴えてくるが、大悟の体は硬直して動かない。
「痛いのが嫌だったら、薬でわからなくしてあげる。あなたはシラサカとレイのお気に入りだから、丁重に扱って──」
「そこまでだ」
ガラリと扉が開いた瞬間、大悟の前に長身の男が立ちはだかった。迷うことなく拳銃を前に突き出す。
「ハニーに害を及ぼす人間は、俺が許さねえ!」
Kだった。突然やってきた彼に、大悟は目を丸くするしかなかった。
「やっぱり聞いていたのね」
「てめえがいるところに、ひとりで行かせられるかってーの!」
「ハナムラ最強の始末屋の恋人に手を出す程、私はバカじゃないわよ」
サユリは空気を一変させて笑う。勘弁してよと両手を挙げた。それを見て、Kは銃口を下ろした。
「どうして、ここに?」
ふたりを交互に見やることしか出来なかった大悟は、ようやく言葉を発した。Kは拳銃を仕舞い込んで振り向き、よいしょと言って自分を抱き上げ、笑う。
「何かあったら困るから、ネクタイに盗聴器仕込んどいたの」
当然のように言い切るKに、サユリは肩をすくめて言った。
「レイから連絡が来ていたのよ。シラサカが見張ってるだろうから、余計な事をするなとね」
「しっかりやってんじゃねえか!?」
「あなたが本当に見張ってるかどうか、確かめただけ。お詫びにここを空けてあげる。但し、一限目チャイムが鳴るまでよ」
「オーケー、オーケー。それでチャラにしてやる」
「あんまり変なことしないでよ。他の人も出入りするんだから。じゃあ、ごゆっくり」
ひらひらと手を振って出て行くサユリ。彼女の後ろ姿を見送って、大悟は大きく息をついた。
「なんで来たの、K」
シラサカもシラサカだが、サユリもサユリである。大人の考えることはわからないと、大悟は呆れるしかなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
49 / 80