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第49話(前編)
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大悟にキスを拒絶され、レイと同じような事を言われ、機嫌を害しまくっていたシラサカだったが、会社で彼からキスされると、一転上機嫌になった。
「……あ、これね。うん、すぐ出来るよ。今からやるね」
大悟はレイから電話で指示を受けていた。真剣な表情でパソコンに向かう彼を、シラサカは自席から頬杖をついて眺める。
今夜はどうやってハニーを鳴かそうかな。草薙が帰ってくるから、玄関とかキッチンとか無理だし。
シラサカは今夜のセックスをどうするかで、頭が一杯だった。
いや、帰るまで待てねえ。車でヤりたいけど、人目があるしなぁ。
「サカさん、顔がニヤけすぎだよぉ」
向かいの席のマキが、マグカップをふたつ持って現れる。香りからして、ホットココアのようだ。無論彼が入れてくれたわけでなく、若手社員が作ったものである。
「だって、ハニーの真剣な顔、そそるんだもーん」
「はいはい、ごちそうさま。これ、カナカナに渡して」
「サンキュー。あ、マキ、明日からは……」
「わかってる。カナカナの送迎はサカさんの仕事だからね」
マキはシラサカの性格をよくわかっているようである。言うだけ言って、ひらひらと手を振って自席に座る。
そうだ、駐車場にしよ。あそこなら何かあっても誤魔化せるし、車内に着替えもあるしな。
真面目に仕事をする大悟を眺めながら、不謹慎極まりない事を考えるシラサカであった。
そうこうするうちに、大悟の今日の仕事は終わり、自宅へ戻ることになった。
「もしかして、変なこと考えてない?」
帰りの車中で大悟が言った。なぜわかったのかと思いつつ、ここはとぼけることにする。
「ないない。真剣に仕事するハニーは、凄いなって思ってただけ」
ここでバレたら計画が台無しだ。ヤりたい気持ちを必死に抑え、シラサカは笑った。
「ううん、凄いのはKの方だよ。皆から頼りにされててさ」
勘は鋭いが、大悟は素直である。シラサカの邪な気持ちに気づかなかった。
「頼りになんかされてないよ。会社では何もしないのが、俺の立ち位置だからね」
完璧でがむしゃらに働き、残業どころか徹夜もするレイと、基本遊んでばかりで定時にきっちり帰るシラサカ。正反対な二人が上にいることによって、ハナムラコーポレーションのパワーバランスは保たれている。それでもシラサカは、ハナムラコーポレーションの責任者であり、有事の際は先頭に立つため、誰も文句は言わないのだ。
話をしているうちに、自宅マンションの地下駐車場に辿り着く。車を停め、ここからが本番だと、シラサカが大悟の方を向いたときだった。
「ねえ、あそこに誰かいるよ」
そう言って大悟は窓の外を見やる。どういうわけか、キスしようとすると、常に遮られてしまうのはなぜなのか。
地下駐車場には三台分の駐車スペースを確保している。ひとつは私用、ひとつは仕事用、もうひとつは来客用だ。その来客用の駐車スペースに、スーツ姿の男が立っていた。誰かを待っているとしたら邪魔だし、何よりそこはシラサカ所有のスペースである。
ここに留まるよう大悟に言い含めた後、シラサカは車から降りた。自分より少し低い程度の高身長、ブランド物のダークなスーツを着たその男は、全身からピリピリとした空気を放っていた。シラサカと目が合うと、こんな言葉を放った。
「あんたがハナムラのナンバー2かよ」
組織のこと、シラサカのことを知っている。だとすれば、対応を変えなくてはならない。
「最初で最後の忠告だ。バラされたくなかったら、さっさと帰りな」
車内に大悟を留まらせておいてよかった。そう思う一方で、彼がいる手前、この場で男を処分出来ないことに苛立ちを覚えた。
「俺はあんたらに興味はない。草薙総監のところへ案内しろ!」
警視庁の人間で、ここに草薙がいることを知り、尚かつ来られる人物は蓮見しかいないはずなのだが。
「ご覧の通り、今帰ってきたばかりだから、奴がいるかどうかは知らねえ」
「ここにいることはわかってるんだ。早く連れて行け!」
よくよく観察してみれば、男はとても焦っている。
「あのさあ、俺の話、聞いてる? 今帰ってきたばかりだって言ったろ」
「このままだと危ないんだよ!?」
理解不能の状況にシラサカは困惑するばかり。そのとき、ポケットに入れてあるスマートフォンが震えた。
「電話出ていい? もしかしたら草薙かもしれないから」
草薙の名前を出したこともあり、男は頷いた。それを見て、シラサカはスマートフォンを取り出し、画面をちらりと見てから耳に当てた。
『自宅に戻ったか?』
「いや、まだ駐車場。草薙の居場所を教えろって、刑事さんに脅されてる」
相手はレイだった。シラサカの言葉に舌打ちした後、こう続けた。
『草薙が行方を眩ませたと、蓮見さんから連絡が来ていた。そこにいる刑事と話をさせてくれ』
「知ってんのか、こいつのこと」
『心当たりがあるから、答え合わせをしたい』
「オーケー、オーケー」
シラサカは耳から離し、スピーカーに切り替え、男の方にスマホの画面を向けた。
『藤堂駆。警視庁捜査一課強行犯係、高梨班所属。母親の藤堂文香(とうどうふみか)は未婚で子供を産んだため、戸籍欄の父親の名前は空白』
スマートフォンから聞こえてきたレイの言葉は、目の前にいる男の経歴だろう。
「こいつがハナムラのブレーンか……」
そう呟いて、藤堂駆は唇を噛みしめ、俯いた。
『藤堂文香は、草薙と同じ大学に通っていた。二人がつきあっていたという話もあったが、本人は否定し続けた。大学を卒業した翌年、彼女はひとりで子供を産んで育てたが、三年前に病死。死の間際に真実を話したんじゃねえのか、おまえの父親が草薙だってことを』
最後の言葉に反応し、藤堂は顔を上げた。
「だったらなんだよ」
つまり、藤堂は草薙の息子ということになる。いきなり食ってかかってきたり、秘密を暴露されても怯まなかったり。命知らずなところは、確かによく似ている。
『なぜ、草薙が狙われていることを知っている?』
「言いたくない」
『それなら質問を変える。おまえ、草薙を刺した人物に、心当たりがあるのだろう』
「おまえらみたいな人間に、話すわけねえだろ!?」
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