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第51話
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「あーあ、刑事さんを部屋に連れていくなんてなあ」
シラサカは草薙の息子である藤堂と共に、エレベーターに乗り、自室へ向かっていた。草薙のときは強引に押しつけられたが、今回は自ら招き入れている。
『居場所を特定されたのは、おまえのミスだろうが』
レイとは電話を繋げたまま、スマホはポケットに突っ込んである。全て彼の言うとおりではあるのだが、やはり納得がいかない。
そうこうするうちに、エレベーターが到着し、玄関前に辿り着く。シラサカはポケットから鍵を取り出し、施錠を解除した。少し扉を開けたものの、すぐに閉めた。
「オーケー、オーケー。ハニーは階下で正解だぜ。嗅ぎ慣れた臭いがするからな」
シラサカは車内から持ち出した愛用の拳銃ベレッタM92を右手に持ち、左手で勢いよく扉を開け、靴を脱ぎ、室内へと入る。
「おい、なんで止まって──」
後に続いた藤堂だったが、途中でシラサカが立ち止まったため、横から覗き込むようにして、中の様子を確認する。
「そこを、どけ……」
シラサカの前には、全身を真っ赤に染めた男がいて、震える手でこちらに銃口を向けていた。
「あまり動かない方がいい。残り少ない命が削られるだけだぜ」
そう言うと、シラサカは拳銃を仕舞い込んだ。こちらから攻撃するまでもない。放っておいても命は尽きる。救命処置すら間に合わないだろう。
「俺は、まだ、終わってねえんだよ……!?」
藤井慶だった。返り血も混ざっているようだが、腹部からの出血は止まらず、床に溢れ出ている。
「藤井さん!?」
シラサカを押しのけ、藤堂は駆け寄った。
「お、まえ、なん、で、そいつ、と……」
藤堂の顔を見て気が緩んだのか、藤井はその場に崩れ落ちた。手や服が汚れることをかまわず、藤堂は藤井を抱き止め、腹部の出血を止めようとする。
「すぐに救急車を呼びますから!」
「呼んだところで手遅れだって」
藤堂は振り向き、シラサカを睨みつけた。
「この状況を見て、なんとも思わないのかよ!?」
「落ち着けよ、刑事さん。救急車なんか呼んだら、面倒が増えるだけだろ」
シラサカは間違ったことは言っていない。頭に血が上ってしまっているのは、藤堂の方だから。
「それより、早く聞いておけよ。誰にやられたのか、返り血が誰のものかってこと」
全身を赤く染めているものの、藤井の傷は腹部のみ。他はおそらく返り血だ。藤井の目の前で誰かが傷つき、倒れた可能性が高い。
「俺、は、終わっ、てね、え……あいつ、ぜっ、た、ゆるさ、ね……」
言葉の途中で口から血を吐き出して、藤井は事切れてしまった。
「藤井さん、藤井さん!?」
藤堂が強く呼びかけ、体を揺さぶっても、藤井は反応しなかった。こちらに銃口を向けることが出来る状態ではなかったのに、あれは最期の執念だろう。
「救急車なんか呼んでも無駄だったろ」
シラサカは、やれやれと言わんばかりに肩をすくめる。
「おまえは最低の人間だ!」
藤井の元を離れた藤堂は、怒りで我を忘れた。血に染まった手でシラサカの胸倉を掴んだため、服に血液が付着してしまった。
「最低で結構だけどさ」
声のトーンが下がると同時に、シラサカの右手が藤堂の首元にかかる。
「あんたのせいで汚れちまったじゃねえか。ハニーが怖がるから、着替えてこないと」
そう言いながら、シラサカは藤堂の首を強い力で締め上げる。
『シラサカ、面倒を増やすなよ』
状況を察したらしいレイが止めに入る。我に返ったシラサカは、首から手を離した。藤堂はその場にしゃがみこみ、激しく咳き込んだ。
「ショッキングな姿を見て動揺するのはわかるけどな。誰にやられたのか、聞いておくべきだったと思うぜ」
シラサカは事切れた藤井を避け、進んだ。
リビングにはそれらしき形跡が何も無かった。床に血液が付着していたが、これは藤井のものだろう。それは、当初寝室として草薙に明け渡した物置部屋へ続いている。
物置部屋の扉を開け放てば、室内には大量の血液と争った形跡が残されていた。藤井に致命傷を与えたのはここだろう。全身の返り血からして、他にも死人が出たことが推測される。それなのに、部屋に残されたのは藤井ひとり。
大悟ならこの状況を映像でレイに見せることが出来るだろうが、機械音痴のシラサカには無理なため、室内の様子を詳しく話すことにした。
『死体を片づけた奴がいるな。雑な仕事からして、防犯カメラに映っていた新人の掃除屋だろう』
シラサカの話を聞き終えたレイが言った。映像は大悟とパソコンを共有してあるため、既に目にしている。
「なぜ刑事ひとりをここに残したんだ?」
掃除するならきっちりしろと、心から思うシラサカであった。
『こうなるように仕組んだ人間は、藤井が草薙を刺したことを知っていた。これは、草薙に対するメッセージかもしれない』
「メッセージ?」
こうなると、始末屋の領域ではないため、レイを頼りにするしかない。
『藤井英介も藤井慶も、草薙絡みで死んでいるだろ。俺からサユリに連絡を入れて、今夜中に掃除を終わらせるよう、要請しておく』
「頼んだ。この刑事さんはどうする?」
シラサカは、しゃがんで俯いたままの藤堂に銃口を向けた。
『刑事さん、藤井の死を公にするか、俺達と一緒にくるか、今すぐ選べ』
レイの言葉を受けて、藤堂は顔を上げた。すぐさまシラサカを睨みつける。
『表沙汰にするというのなら、おまえをここでバラす』
「選択肢は一つしかねえってことかよ」
『おまえは知りすぎている。俺達側につけないなら、草薙の息子であっても、生かしておけない』
「藤井さんの死を、無かったことにしろって言うのかよ!?」
『草薙が殺人犯になっていいのか?』
レイが発した殺人犯という言葉に、藤堂は動揺を見せた。
『草薙の行方がわからない以上、藤井を殺害して、逃亡したと思われても仕方のない状況だぞ』
瀕死の藤井ひとりをここに残したのは、藤堂が訪ねてくることを想定してのことらしい。
「こんな酷い殺され方をしても、黙ってろって言うのかよ!?」
『死にたいと言うのなら止めはしない。だが、おまえが死んだところで事態は何も変わらない』
冷静なレイの言葉を聞いて、藤堂は俯いた。その後、振り絞るように言葉を紡ぎ出した。
「どんな形でもいい、藤井さんを弔わせてくれ……」
『わかった。シラサカ、蓮見さんがそろそろつく頃だ。刑事さんを引き渡してくれ』
「オーケー、オーケー。今夜はハニーと外泊だな」
そう言って、シラサカは拳銃を仕舞い込んだ。
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