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第54話
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大悟がKと共にハナムラグループの自社ビルに辿り着いたのは、打合せの五分前だった。Kは駐車場から社長室に直行したため、大悟はひとりで地下一階のハナムラコーポレーションに向かい、身分証兼入館カードを扉に翳して会社に足を踏み入れると……
「おはようございます、カナリアさん!」
「学校はお休みですか?」
皆が仕事の手を止めて、集まってきた。
「おはよう。今日はお休みしてて。あの、仕事の邪魔してごめんなさい!」
ぺこりと頭を下げれば、皆が慌て始める。
「カナリアさん、頭上げてくださいよ!?」
「邪魔なんかじゃありませんからね、カナリアさん!」
「前から気になってたんだけど、なんで俺にさん付けなの?」
大悟は高校生であるし、この中では一番年下である。それを気にして、当初は敬語を使おうとしていたが、会社で敬語を使うなとレイに言われて以来、フランクに話すようにしたのである。
「裏やってる人達を、呼び捨てには出来ないっす」
「カナリアさんは、シラサカさんのパートナーですしね」
表の仕事に従事する彼らは、裏の仕事をしているレイ達には、頭が上がらないようである。
「でも、俺まだ高校生だし、皆の仕事を少し手伝っているだけだよ」
レイの仕事の手伝いと言っても、ほとんどは表の仕事に関わる雑務全般である。
「カナリアさんの仕事は早いし、わかりやすいので、すごく助かっていますよ!」
「カナリアさんがいると、シラサカさんの機嫌がいいですしね」
「Kは、昨日みたいに機嫌が悪かったりするの?」
こんな機会は滅多にないので、彼らに普段のKについて訊ねてみる。
「昨日はともかく、普段はそんなことないですよ。レイさんは何かと怒ってますけど、そのおかげで何も言われないし、定時で帰れるし」
大悟が知るKは、レイに怒られ、マキに呆れられている姿だが、それだけではないようである。
「ここだけの話ですけど、レイさんってすごく仕事出来るじゃないですか。俺達の何倍も働いて、裏の仕事もして。あの姿見てると、もっと頑張らなきゃって思うんですよね」
「けど、シラサカさんが急ぎでない限り、定時で帰れと。レイさんの真似をしなくていいと言ってくれて」
Kが社内で遊んでいるのは意味があった。皆がレイに流されないようにするためなのだ。
「あ、カナカナだ、おはよー」
そこへ拳銃の引き金に指を入れ、くるくる回しながらマキが現れた。彼らはマキに一礼すると、仕事に戻っていった。
「おはよう、マキ。それ、本物?」
「そだよ。あ、弾は入ってないから。ルミルミが僕仕様の拳銃の試作をしてくれてるから、向こうで試し撃ちしてたんだ」
念のため、ルミルミとは、藤原の父親である藤原治巳のことである。
「ちょっと、持たせてもらっていいかな?」
情報屋は人殺しをしないのがルールだと聞いている。それでも、護身用に一人一丁拳銃を持つことになっており、撃ち方も訓練することになっている。大悟は高校卒業してからだと言われ、持つことすら禁止されていた。そのためなのか、家に銃器が置いてあるはずなのに、Kは大悟に見せることはしないし、在処も話さない。
「いいよ。せっかくだから撃ってみる? 向こうにプチ射撃場があるんだ」
レイにバレたら怒られるかもしれないという気持ちと、少しでもKと同じ場所に立ちたい気持ちがぶつかり合う。
「レイやKに、内緒にしてもらえる?」
悩んだ末、大悟は後者を選択した。
「りょうかーい。後々練習するから、バレても問題ないと思うけどね」
こうして大悟はマキに連れられ、奥の部屋に足を踏み入れた。人型をした標的が置いてあるだけの簡素な部屋は、防音ルームになっており、外に音は漏れないとマキが言った。壁のあちこちに穴が開いており、さっきまで撃っていたのか、標的の真ん中には穴が開いていた。
「僕が使ってる銃はグロック17。通常はフレームがプラスチック製で、他の製品より軽量化されてる。トリガーセーフティ、引き金に指をかけて引き絞るだけで、安全装置が外れちゃう仕様だから、初心者にはあまりオススメ出来ないんだよねぇ」
引き金に指をかけちゃダメだよと言って、マキは拳銃を差し出した。ごくりと息を飲んでから、大悟はそれを受け取る。
「これで軽いの!?」
見た目は確かにプラスチックのようだが、とても重く感じた。
「実はね、カスタムパーツ入れて、金属製のフレームにしてるんだ」
軽すぎると撃った気しないからと言って、マキはケラケラと笑う。
「ちなみに、サカさんはベレッタM98。ベレッタは安全装置が左右両側についてて、左でも撃てるからだって」
K同様、会社では遊んでいる姿しか見たことないマキだが、拳銃についてすらすらと話す様を見ると、彼も殺し屋なのだと実感する。
「銃を扱う際の基本として、銃口は常に安全な方向へ向けること。撃つ瞬間まで引き金に指をかけないこと。このルールは必ず守ってね」
マキの言葉に大きく頷く大悟。彼に連れられ、標的までおよそ二メートルの立ち位置へ入る。マキが拳銃に弾丸をセットした。握り方や構え方などを一通り教わって、ヘッドホンを装着する。
『じゃあ、拳銃持って、さっき言ったみたいに握って、ここで初めて銃口を標的に向ける。うん、いい感じ。それからトリガーガード、引き金に指をかけて、力を込めて引き絞るだけ』
ヘッドホンから聞こえてくるマキの指示通りにして、大きく深呼吸してから、大悟は指に力を込め、引き絞る。パンという渇いた音と、思っていた以上の衝撃に体がぐらりと揺れた。尻餅をつく寸前で、倒れそうになった体を支えられる。
「なにしてんのかなぁ、ハニーは」
大悟の体を支えてくれたのは、仏頂面のKだった。
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