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第58話
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「あれ、マッキーと大悟って、珍しい組合せやな」
マキと共に藤原家を午前中に訪ねる。出迎えてくれたのは、ミカではなく藤原だった。
「ミカちゃんさん達は出掛けてるの?」
「ああ、オトンと一緒にな。昼過ぎには戻ってくるゆう話やったで」
勝手知ったるで上がり込む大悟だったが、マキは玄関でうーんと唸った後、こう言い放った。
「ルミルミ居ないなら、僕、車で待ってるね」
「え、でも!?」
「中に居るの、カズ君だけじゃないんでしょ。僕もサカさんの仲間なわけだから、刺激しない方がいいかなって」
鳥居の気持ちを考えてのことらしい。帰るとき連絡してと言って、マキはひらひらと手を振りながら出て行った。
「気遣ってくれとんねんな、マッキー」
「うん、優しいよね」
この事は鳥居には黙っておくことにして、大悟は藤原の部屋へと足を踏み入れた。
「あれ、大悟、学校は?」
鳥居に名前を呼ばれるのは、まだ慣れてなくてちょっと照れくさい。
「色々あって、今日は休みなんだ」
「ハナムラのボスと会うて来たんやろ」
藤原が言った。情報はレイから伝わっているようである。
「おまえがなんか悩んどるから、話聞いてやれ言われたんや」
「鳥居も一緒でいいの?」
ハナムラのことを知り得ている藤原はともかく、鳥居は大丈夫だろうかと心配になった。
「勝馬はオトンの息子かつ俺の弟やで。ここだけの話、実は兄貴から、ハナムラのことをちょっとだけ耳にしてたみたいやしな」
藤原の言葉にこくんと頷く鳥居。今の今までそれを黙っていたのだから、口は固そうである。
幸い、ここには三人しかいない。他言無用をお願いして、大悟はこれまでの出来事を彼らに話すことにした。
「ふーん、警視総監の失踪ねえ。面倒くさい事になっとるねんな」
この場限りでとお願いされていたので、花村の過去については話さなかった。
「その脅迫状がこれなんだけど」
大悟は鞄の中から、クリアファイルに入れておいた脅迫状のコピーを藤原に手渡す。
「確かに気になるなぁ、Fの無念って」
目を通した後、藤原は鳥居に手渡した。
「草薙さんを刺したのは藤井慶さんっていう、英介さんの甥らしいんだけど、彼も亡くなってしまったから」
「脅迫状を出した相手がその藤井慶って奴やと仮定すると、Fの無念は叔父である藤井英介の無念ってことか? なんや回りくどいなぁ。総監自身がその英介を殺したゆうとんねんから、はっきり名前書いたらええんとちゃう」
藤原の指摘は最もだった。鳥居の虐待を見抜いたことといい、彼の考察は凄いと大悟は感心した。
「脅迫状を出したのは、藤井慶さんじゃないって思う?」
「まあ、状況的にはそうとも言い切れんけど。大悟の違和感も、そことちゃうんか?」
「うん。藤原が今言ったことも、すごく納得なんだけどね」
大悟の違和感はそこではなかった。脅迫状を花村に差し出されたときに感じたものだったから。しばらく考え込んでいると、それまで黙っていた鳥居がこんなことを口にした。
「これ、現物じゃなく、コピーだよな?」
鳥居の言葉に、大悟とはっとして叫んだ。
「それ、それだよ!? 草薙さんのところにあったのは、四つ折りに折り畳んだ跡がくっきりついてた。でも、これにはそれがない!」
「勝馬が言うように、コピーとちゃうんか?」
「コピーだと思うけど、ボスは草薙さんが怪我をしたときにって……!?」
先程の花村の言葉を思い返す。あのとき彼はこんな風に言っていた。
(あいつが怪我をした際にね)
花村は、脅迫状を草薙から受け取ったとは言っていない。怪我した際という言葉ではぐらかしていた。
違和感の正体が明らかになると、あのときはなんとも思わなかった疑問が噴出してきた。
「あれ、なんで友達ってだけで先生達は拉致されたんだろ? それに拉致した相手って誰……?」
「なんやねん、その拉致って」
ここで、心の呟きが言葉になっていたことに気づく大悟。
「いや、ちょっと別の話」
さすがに花村の過去は話せない。これ以上追求されたらどうしようと思っていたが、藤原は気にすることもなく、自信満々に言い放った。
「そういうことやったら、話は百八十度変わるで。総監が持っとった脅迫状には、四つ折りの跡がくっきりあった。ハナムラのボスは、脅迫状のことを、総監が怪我した際にとしか言わんかった」
ここまで言われたら、大悟も理解した。
「脅迫状を受け取ったのは草薙さんじゃなくボスだった。そのコピーを、草薙さんが怪我をしたときに渡した。草薙さんはそれを折り畳んでしまったから、折り目がついていたんだ!」
つまり、脅迫を受けていたのは草薙ではなく、花村の方だったのだ。
『……なるほど、そういうことか』
そのとき、どこからともなくレイの声が降ってきた。
「レイ、聞いてたの!?」
驚く大悟。鳥居はきょろきょろと周囲を見渡した。
『何のために藤原の家に向かわせたと思っている。おまえの違和感が脅迫状の折り目だとは、思いもしなかったがな』
草薙のところにあった脅迫状を見たのは大悟とKだけ。折り目の違和感に気づいたのは、大悟だけだったのだ。
「レイは知ってたの、ボスが脅迫を受けていたこと?」
『知っていたら、こんなに呑気にしていない。だがこれで全て読み解けた』
「それって、犯人もわかってるってこと!?」
今の話だけであの文章を読み解くとは、さすがレイである。
『カナリア、おまえは組織のことも、ボスの過去も聞いている。おのずと答えは出るだろう。わかったらすぐ連絡してこい』
言うだけ言って、レイの声は聞こえなくなった。
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